episode5 ページ5
「お、A！久しぶりだな！」
交通事故の処理を終え警察署に戻れば元上司の陣馬さんがいた
「あ、陣馬さん！お久しぶりです」
その瞬間少しだけAの表情が柔らかくなったのを志摩は見逃してはいなかった
思わず眉間をピクりと動かした志摩を伊吹はにやにやと見つめる。
「元気にしてたか」
「もちろんです」
ばしばしと陣馬に背中を叩かれてもAは笑って頭を撫で回されていた。その様子を九重は隣でぎょっとするように見つめている
志摩はもやりと謎の感覚に襲われる自分の胸元を見下ろした。それから前に目をやって桔梗を呼びに行かねばと踵を返す
それから桔梗をつれて戻ってくればAは桔梗に向かって再び頭を下げ嬉しそうに笑う。さっきの陣馬への笑顔とはやはりどこか雰囲気が違う。それはどちらかと言うと俺らに向けたものと似ていた
「ごめんなさいねA、本当は初日に合わせて呼びたかったのだけれど少してこずってしまって」
それから彼女は桔梗に連れられて隊長の机の方へと引っ張られていく
志摩は自分の机に戻ろうとして伊吹に袖を引っ張られた。振り向けばニヤけた面で見上げている
「ねぇねぇ、志摩ちゃん。キャッキャウフフしたいんでしよ」
「はぁ？そのキャッキャウフフ、ってのはなんなんだ」
「だーかーらー、Aちゃんのこと好きになっちゃったんでしょ？」
「伊吹、お前のそのバカみたいな思考回路を誰にでも当てはめるな。セクハラだぞそれ」
「ん〜でも否定しないんだ」
「バカか、いやバカだったな、うん。第一お前は何も感じなかったか」
「Aちゃんのこと？あ、めっちゃキュルンだよね」
聞いた俺が馬鹿だった、と志摩は内心ため息をつく。それからガラスの向こうのAにもう一度目を向ける
「………考えすぎか」
そう呟き報告書へと筆を走らせた
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作者名：あぶく | 作成日時：2024年3月27日 7時
