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2人は頷いて公民館の中に飛び込んでいく。
私も2人の後を追って中に入ろうとするが――
「ダメだ。Aちゃん」
ユイさんに力強く背後から抱きしめられる。動けない。
「離して!ユイさん!離してよ!」
松田さんが、萩原さんが、成実先生があの中にいるんだ。助けなきゃ。私が助けなきゃ。それなのにユイさんは少しも力を弱めてくれない……。
「離して!お願い……お願いだから……はなして……!」
ユイさんの手に涙がポタポタ落ちるがそれでも彼はぎゅっと私を抱きしめたままだ。嫌。そんなの嫌。松田さんや萩原さんにまだ……まだなにも言えてないのに。
今回巻き込んだごめんなさいもありがとうもまだつたえられてないのに……それなのに…………こんな別れ……
「もろふしー!そこから離れろー!!」
松田さんの大声があたりに響く。ユイさんはいきなり私を横抱きにしてその場から離れる。次の瞬間――――
ガシャーンと音がして男2人と横抱きにされた女性が公民館の窓ガラスをぶち破って出てきた。
「ま、松田!ハギ!」
ユイさんと私が駆け寄る。
「……なんで、なんで死なせてくれないんだよ」
成実先生は地面に横たわったままになっている。煙を吸い込みすぎたのか動くのがやっとのようだ。
「あ?俺ら警官だぜ?俺らの前で死のうとすんな。テメーはちゃんと生きてテメーの罪を償うんだよ。それが贖罪だろ」
「……あんたたちみたいな警官がいるなんて……もっともっと早く会いたかったよ」
成実先生の頬に一筋の涙が流れ落ちた…………
私は成実先生から少し離れたところで座り込んでいた。顔を下に向けたままにしていると、私の様子に気づいた松田さんと萩原さんが近づく。
「Aちゃん?」
萩原さんの声に頭を上げる。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔に2人とも驚いているようだがそんなの関係無い。
「バカバカバカ!2人ともバカ!成実先生死なせないでって言ったけど!でも2人も死んじゃったら意味無いんだから!あんな危ないことして!どんだけ私が怖かったか分かってんの!本当信じられない!もう2人とも知らない!」
うわーんと人目をはばからず号泣する私と、そんな私にオロオロしている男たち。朝の光に包まれて長い長い夜は終わった――――――
公民館は朝まで燃え続けて全焼した。村沢さんも朝になると意識が戻り、殴られた時について語り出した。公民館に行ったのはピアノが処分される前に調律をするためだったのだ。
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作者名:久春 | 作成日時:2023年11月23日 12時