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萩原さんがピアノに触れようとした時―――
「ダメです!そのピアノに触っちゃ……!!」
大きな声にビックリしてみんなで振り返ると秘書の平田さんが入り口で恐怖に怯えた顔で立っていた。
平田さんの話によると、麻生さんが最期に弾いていたピアノだそうで……それだけで無く、前村長も同じ目にあった。平田さんが公民館の近くを通った時にピアノの音色が聞こえ、中に入ると前村長が鍵盤の上にうつ伏せで亡くなっていたとのこと。死因は心臓発作だったが、亡くなる直前まで弾いていた曲が『月光』だった…………
平田さんの話を聞いて背筋がゾクゾクしてつい、近くにいたユイさんの腕にしがみつく。そんな時――
パラピンポン♪パラピンポン🎵
萩原さんがピアノに触っている。な、何してんの!この人……信じられない……!!
「ピアノ……大丈夫そうみたいよ?」
「と、とにかくあなた方は法事が終わるまで玄関で待っていて下さい」
そう言って私たち4人は平田さんに部屋を追い出されてしまった…………
廊下に出てとりあえず玄関に向かおうとしたら、先ほど出会った浅井成実さんに出会った。
「あら、あなたたち……まだいたの?」
「成実先生!どうしてここに?」
「清水さんとはたまたま道で一緒になって……前村長の検死したのが私だったから、お焼香ぐらいはね?」
成実先生と別れて私たちは玄関にとりあえず待つ。
外は夕暮れからすっかり夜になっている。東京のどんよりとした雲に覆われた空では無く、星空がキレイに見える。あれからずっと玄関で待っているが法事はまだ終わらないらしい……。
それまでワイワイ盛り上がっていたが、
「あのピアノ……妙だったね」
ユイさんがポツリと独り言のように呟く。私は何が妙なのかさっぱり分からない。
「妙って何がです?」
「……あのピアノ、何年も使っていないのに音が正確に出ていた。ピアノって定期的に調律しないと音程が狂うんだ。それなのに……」
音が正確に出ていた。誰が、何のために……?
そんな時、公民館から悲しげな音が聞こえる――――
「まさか……」
松田さんと萩原さんは弾かれるように公民館の中に入って行く。ユイさんも後に続き、私も遅れて中に入る。
松田さんたちはピアノが置いてある部屋に一目散に入って行く。そこには――――
村長選に立候補していた、川島さんの全身ずぶ濡れで恐怖に歪んだままの顔で固まっている姿がそこにあった。
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作者名:久春 | 作成日時:2023年11月23日 12時