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『落ちてた』
「あ、ありがと…」
『それ、大切なものなんだな』
「…うん」
『いいな。そういうの』
「え？」
『相手のことを考えている証拠だ。自分で気付いてほしいこともある』
可愛らしい装飾の、マスキングテープ。
自分を見て別の単語を発していた理由も、その単語が本の持ち主であることも宣杜は気付いた。
気付いた上で、その持ち主と牧の関係性を尊重して、自分が自分であることを捨てた。
自分に刺さる気持ち悪い視線に気付かないふりをして、牽制として宣杜もまた、牧に歩み寄ることはしなかった。
「宣杜は牧が嫌いなのか？」
『ええ？』
「必要以上に話さないだろ」
『野上にはわからないよ、俺の悩みなんか』
野上だけじゃない、花井にも、神木にも言われたことがある。
牧との関係値を、その度に適当にあしらっていた。
周りは良いように捉え、野上と同室であることに妬いていると思ってくれた。
3割程度はあっているが、根本的な原因は自分ではないのだ。
牧が自分を見ていないから、なんて言っても伝わるはずがない。
本人が気付かなきゃ意味がないだろうし、宣杜もまた、野上以外への関心が薄いため早期解決をする気もなかったのだ。
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『変わったな、お前』
「え…？」
『うん。そっか、牧ってそんな顔をしてたのか』
顔を合わせることなんかずっとしてきたのに、初めてちゃんと面と向かった気もした。
牧の目はもう宣杜のことを見ていて、少し慣れないのか揺れ気味だ。
『大切な人が見えなくなって残念か？』
「は？違うし！何言ってんの！？」
『はは。そのくらい元気があるなら大丈夫そうだな』
「ちょっと！」
『牧なら大丈夫だから、したいことは貫けよ』
長居すると流石に怒られそうだからと、宣杜は後ろ手を振りながら窓から出ていった。
身軽に消えていくところは、なんだか羽根が生えてるみたいにも見えて。
「……調子が狂う」
好きだった面影は見えなくなったのに、自分を見透かす瞳は変わらない。
今も昔も宣杜相手にするのは慣れなさそうだと、牧は宣杜が出ていった窓をゆっくりと閉めた。
夜にここから脱走しようとしてることも気付いてるんだろう。
昨日も、今日も宣杜は止めようとはしない。
「良いように進むってことで、いいのかな」
本当になんでここに来たんだろう。
その疑問が牧に浮上するのは、もう少し先の話だ。
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yechung(プロフ) - とても素敵な作品でした。ありがとうこざいましたm(_ _)m (2023年2月6日 16時) (
レス) @page29 id: 2db2bfccf5 (このIDを非表示/違反報告)
ぼあ(プロフ) - 最終話楽しみに待ってます！ (2022年12月24日 12時) (レス) @page24 id: 6c4e658584 (このIDを非表示/違反報告)
古川(プロフ) - 定期的に読み返して楽しんでいます。最近はお忙しいのでしょうか？気長に更新待っています。 (2022年7月13日 22時) (レス) id: 4b5ae5c210 (このIDを非表示/違反報告)
yechung(プロフ) - 移行してたのに今日気づきました( ﾟдﾟ)更新ありがとうございます。毎回とても面白いです。 (2022年5月11日 6時) (レス) @page15 id: a7fc5954a6 (このIDを非表示/違反報告)
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