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「さあ！準備はいいか！」
海を渡れば待ち受けるのは一面の熱い砂。
野上の声にみんなが頼もしく返事するなか、先輩だけはいつまでも言い訳をかましている。
そんな先輩に桃井が喝を入れ、待てと声を出すも花井の合図で走り出した。
こんな青天を全力で走るのは、初めてだ。
それも誰かとともに、遠い目的地のために。
馬鹿みたいなことに付き合うのは、悪くなかった。
卒業すれば俺はこうして無邪気な奴らと話すことも叶わないのだろう。
「A」
『なーに』
軽やかな足取りについていけば、野上が声をかけてくる。
余裕そうに口を開く様は、一番後ろを走るあの人とは大違いだ。
「…本当はずっとこうしたかった」
『何のこと？』
「お前いつもいなかっただろ」
流し目で言われた言葉に、固まった氷が解ける感覚がした。
あのときだ、欠食届を利用して島を出ようと作戦を立てていた頃。
野上の誘いを何度も断ったのに、諦めることはなくて。
……もしかしたら、賞を取って合法的に島に出たときも。
俺を誘おうとしていたのかもしれない、野上は本当にやさしいひとだ。
野上を始点とし、脈が広がった。
決して外より広くはならない人の輪。
広くないからこそ、深く温かい関わり。
『野上は、やさしいね』
「ああ。お前限定でな」
嘘つき。誰にでも手を差し伸べるくせに。
それでも簡単に嬉しくなる俺は、いつも通り野上を肯定するのだ。
・
・
・
空港まであと少し、俺たちは夜の公園で野宿をすることになる。
キャンプとかもしたことないし、外で眠ることになるなんて。
自然に触れるたび、自分の生きていた世界が人工的だったと自覚する。
恵まれた生活ではこんなこと、体験する必要もなかった。
…大丈夫だ、一晩くらいなんとかなる。心を強く保て自分。
一日走り回ったのに元気に遊具ではしゃいでいる奴らを壁に寄りかかって見ていたら、野上が近付いてきた。
「悪い、野宿させて」
『あ、俺限定のやさしさ』
「はあ…軽口叩く余裕があるなら大丈夫か」
『英敏くんが俺のこと坊ちゃん扱いしたのが悪い』
「人と風呂入るの嫌な奴が、寝床共にするの無理だろ」
『あーね。一番端ならいいかな』
「寝れるか？」
『……一人なら寝ないね』
「ほら。野宿嫌なんじゃないか」
『俺は繊細だからね』
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yechung(プロフ) - とても素敵な作品でした。ありがとうこざいましたm(_ _)m (2023年2月6日 16時) (
レス) @page29 id: 2db2bfccf5 (このIDを非表示/違反報告)
ぼあ(プロフ) - 最終話楽しみに待ってます！ (2022年12月24日 12時) (レス) @page24 id: 6c4e658584 (このIDを非表示/違反報告)
古川(プロフ) - 定期的に読み返して楽しんでいます。最近はお忙しいのでしょうか？気長に更新待っています。 (2022年7月13日 22時) (レス) id: 4b5ae5c210 (このIDを非表示/違反報告)
yechung(プロフ) - 移行してたのに今日気づきました( ﾟдﾟ)更新ありがとうございます。毎回とても面白いです。 (2022年5月11日 6時) (レス) @page15 id: a7fc5954a6 (このIDを非表示/違反報告)
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