【メンズ校】Amour à l’infini【男主】 (ページ16)

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牧主税が去っていくのを見届けてから手を離して解放する。
びっくりして腰が抜けたのか黒い影が立ち上がることはない。

『ぶつかって悪かった。お前も人にぶつかったくらいで怯えるな』
「ごごごめんなさ…」
『違う違う。怒ってないし、落ち着け』

こいつ…コミュニケーション慣れしてないのかな。
誰かもわからないし、クラスにこんな男いたっけ…俺が知らないだけか。

座ったまま俺を見上げて動こうとしないから、とりあえずしゃがみ込む。
目線を合わせると子供も動物も警戒を解く原理。

このまま俺が構う義理はないが、震える小鹿を放置するのは気が引ける。
あとで放置したこと恨まれたくないし。

「え、誰？なんでいんの？ばかぁ？」
『知らない人間に名乗るほど俺は馬鹿じゃないよ』
「それもそうか…」

コソコソ動いてた割にはうるさいし、元気そう。
さっきから自問自答ばっかで独り言が多いし、もう放っといていいかな。

『もう遅いからさっさと部屋に戻りなよ』

年下みたいだから子供扱いしたけど、俺が1年なんだから同じかそれ以上か。年上だったら申し訳ないが…まあいいか。

『うおっ…！？』

後ろから思いっきり裾を引っ張られて転びそうになる。
何とか堪えた己の体幹をあとで思いっきり褒めてあげたい。

『な…何？』
「このことは……」
『あぁ。言わないよ、言う相手いないし』
「そ、そう…」

予告なく解放されたから前につんのめる。
平然を装ってそのままこの場を去るが、内心危なかったと思ってはいる。

友達がいない奴と思われたかもしれないが間違いではない。
野上にわざわざ他の奴の話なんてしないし、本当に言う相手はいない。

よかったな知らない黒い影。俺に友達いなくて。