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『お、おはよう…はは、元気？なわけないよねえ……』
人間都合が悪いと捲し立てる習性がある。
野上の顔が見れない、病人を無理やり引き剥がすことも出来ない。
「逃げるな」
『はい、すみません』
「どこにも、行くな」
『浴室に用があるんだけど』
「そう、じゃなくて…！」
痺れを切らしたように野上が詰め寄ってくる、と同時に身体に力が入らなかったのか倒れ込んできた。
まるでスローモーション。
流石にそれを無視するほど野上への情を捨てられてるはずもなく、軽い身体を受け止める。
こうやって真正面から抱きしめるかたちになるのはいつぶりだろう、野上から逃げることばかり考えてたからそれすらも忘れてしまった。
ぶわっと野上の汗が紛れる匂いが鼻につく。危険な香り、中毒性の塊。
好きだな、と思った。今でもこの人が好きなんだと突きつけられる。
『大丈夫？寝込んでたならそりゃこうなるよ』
「……、だ」
『野上？』
野上が何かを言ったけどうまく聞き取れなかった。
倒れ込んだまま体重をかけてくる野上は、いつも通りなのか熱で動けないのか。
するとだらりと下がったままの野上腕がぎゅ、っと俺の背に回る。
言葉ではなく行動で返してくるなんて、びっくりした。
さっきまで受け止めただけ、助けただけだと思ってた脳が一気に抱きしめていると認識を変える。
鼓動がままならない、野上のか俺のかわからない心臓の音。
「…どうしたらいいか、わからないんだ」
『え？』
「ずっと、息が苦しかった。女子の二酸化炭素の解毒なんて意味なかった」
「今は、それが嘘かのように楽で。安心する」
「お前がいないと、俺は満足に呼吸することも出来ない」
「なあ、宣杜。俺はどうしたらいい」
『……野上、泣いてるの』
「泣いて、ない」
前にもこんなことがあった。
野上は意外と涙脆いのか、俺の所為で泣いてるのかわからない。
濡れる肩を気にせずに抱きしめたまま頭を撫でる。
愛しい子、どうしてこんなにも野上は愛らしい人なんだろう。
怒るのも、拗ねるのも、泣くのも、全部俺にだけ。
そんなの…独り占め、したくなってしまう。
でも、遅いよ。俺もう、野上のこと、
「お前は、"これ以上を俺に求めさせるな"と言ったな」
諦めた、のに。
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