【ツキウタ。】空の先をいく走者たち【神無月郁】 (ページ12)

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パシンッ

「っ…！！」

家に帰ったら、
怖い顔をした母が待ち構えていていきなり頬を叩かれた。

「お、奥様…！」

「黙ってらっしゃい。
切那、あなたまた走りに行っただけでなく
男と一緒にいたらしいわね。」

「……だから？」

「鎌足家の先祖返りとしての自覚が足りないのでは？」

「知らない。
先祖返りは先祖返りでも
あたしはあたし。」

「屁理屈を…
いいこと、切那。
これはあなたの事を思って言ってるのよ。」

「……それこそ屁理屈じゃん。
学校の送迎から
カロリー計算された食事等の私生活…

全部あたしのためじゃなくて、
“あたしを死なせないため”の行動じゃん」

先祖代々の切那は短命らしく、
若い年齢で死んでいく。
先祖返りであるあたしも例外ではなく
若い年齢で死ぬだろう。

……先祖返りは始祖と同じ運命を辿る。
だから……あたしも……
どんな死に方をするかわからないけど、
いつしか、死ぬのなら……

「あたしは好きなことをやって、
“あの子”の側で死にたい！！」

「っ！！
あの子……雨ノ小路の先祖返りね…
させないわよ、あなたはこの家の繁栄をもたらす大切な存在。

跡取りもないこの状況下で、
あなたを逃すわけにはいかないわ。」

「それはそっちの事情じゃない。
話は終わり？なら部屋に行く」

「あ！待ちなさい！切那！」

女中さんたちに一礼して自室に戻る。
窓を全開にして、風に当たろうとしても
風は吹かなかった。

「……今日は、無風……
はぁ……ついてない」

本当に、ついてない。