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放課後、俺は家に向かうことなく、制服のまま稲妻総合病院へと向かう。荷物と小さい花束を持って。受付を済ませて看護師さんに手に持っていたそれを渡す。1人で大変ねと言われたが、お得意のいつもと同じ愛想笑いで躱した。とっとと家へ帰ってしまおう、図らずも足早で出口へ進む。するとトンッとすれ違いざまに誰かと肩をぶつけてしまった。


「すいません! ……あっ」
「……お前は確かサッカー部の」
「マネージャーのAです」


顔を上げて確認したその姿に思わず目を見開く、豪炎寺くんだ。彼も予期せぬ相手で驚いたのか、記憶を辿るように俺の顔を凝視していた。
病院に入ってきたということは診察を受けるのだろうか。一見、怪我をしている様子はないが。豪炎寺くんも俺と同様の考えに至ったのか、心なしか心配そうに口を開いた。


「怪我か?」
「いや、お見舞いなんだ」
「見舞い……」
「うん、家族の。豪炎寺くんも?」
「ああ、そうだ」
「そっか」


何となく触れてはいけない領域だと感じ取っているのか、両者とも当たり障りのない、深追いをしないような会話だった。人にはそれぞれの事情がある。それを赤の他人に土足で踏み込まれたくはないと理解しているのだろう。


「この間の試合、ありがとう」
「いや、大したことじゃない」
「それでも、本当に感謝してるんだ」
「お前は聞かないんだな」
「え?」
「俺がどうしてサッカーを辞めたのか」


そう俯く豪炎寺くんが俺には辛そうに映った。そんな顔をする彼にとてもじゃないけど、聞く気になんてなれなかった。彼が過去に何があったのか、今までどんな思いでいたのか、俺には受け止められる自信がないから。


「聞かないし、聞けないよ。でも、もしもまたサッカーがやりたくなったら待ってるから。俺は同じコートには立てないけど、待ってる」
「……ああ」


返事をした豪炎寺くんはもう行ってしまった。小さくなる背中を見つめる。彼が何を背負ってるのかは分からないけど、それでもいつか、きっといつかは同じチームで笑い合える日が来れば良いと願う。

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むた(プロフ) - 星猫さん» 評価ありがとうございます! とても励みになります。 (2021年9月7日 17時) (レス) id: 43b2fdf14a (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - もう一つのpcがしました。初めまして!とっても素敵です!高評価しました! (2021年9月7日 13時) (レス) id: 7d3fe1e696 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むた | 作成日時:2021年9月2日 18時

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