パティスリー・リュンヌ 〈WN〉

紅茶のシフォン ページ18

11月に入って、焼き菓子とチョコレートケーキを増やした。
寒さと熱い紅茶と濃厚な洋菓子は最高の組み合わせ。


『うーん。どうしよう。』

ウォヌさんがクリスマスケーキの試作のいろいろ佳境に入ったから、レジ締めも私がしている。

んー、客層が変わらない。つまりは売り上げも変わらない。常連の深夜帰宅の会社員や、SNSを見てきてくれる若い人はそれなりにいるけど通ってくれるわけじゃないから、集客力は不安定。SNSをやらない世代、特に家族で年に数回誕生日ケーキを買うような客を増やしたい。

『んんー、、、』

頭を抱えてると、目の前に飛び出してくるカレー用の大きなスプーン。

「………ん。」

『ん！……紅茶のシフォン？美味しいです。でも、上に乗ったりんごのコンポートがもう少ししゃきしゃきしてる方が面白いかも。』

「了解。」

最初は皿に乗せて食べてほしいって持ってきてたのに、今となってはダイレクトにスプーンでくる。効率がいいのは分かるが雰囲気もなんもない！……いつくるか分からないから保温カップに紅茶を淹れて常に置いている。

「おい。終電なくなるぞ。」

『え、あ、もう今日も泊まって帰ります。明日シャワー貸してください。』

ボックス席で座ったまま寝るかな。

「……寝るとき、上のソファーで寝ろよ。」

『え、ありがとうございます。』



賞味期限が今日までのパウンドケーキを齧りながら、頭を捻らせる。


あ。あ、あ、あ！そうじゃん！ミンギュさん！


『ウォヌさん！今忙しいですか？』

「なに。」

『焼菓子をミンギュさんの店に置いてもらえないか、交渉するのはいかがでしょう！』

「全然話がわからない。」

あ、突っ走りすぎた。

『ミンギュさんの店はフランスパンや食パンと言ったシンプルなものと惣菜パンがほとんどで、甘いものはシナモンロールとクロワッサンくらいしかありません。そう考えると、マドレーヌやパウンドケーキなど日持ちするお菓子を置いていただけたら、意外と需要があるんじゃないかなと。ミンギュさん自身が定期的にうちに甘いものを食べに来られるのが答えじゃないでしょうか。』

「………あいつの目的はAだろ。」

『はい？』

ボソボソ話すから聞き取れなかった。

「まぁ確かにそれでこっちの客層も増えるかもしれない。次来たとき、あいつに話してみろ。ケーキの仕込みが終わった夕方なら焼菓子の生産を増やせなくもない。」

『ありがとうございます！』

焼菓子。→←栗のモンブラン。

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