パティスリー・リュンヌ 〈WN〉

メロンのショート。 ページ11

道路にゆらゆらと蜃気楼が浮かぶ七月。私もそろそろ仕事を始めるときが来た。


ｶﾗﾝｺﾛﾝｶﾗﾝ

MH「いらっしゃいませ。あ、Aちゃん。」

ここは私の行きつけの紅茶専門店。平日のこの時間は基本的に店長のミョンホさん一人で店番をされている。

MH「お茶淹れようか。ちょっと待っててね。」

ミョンホさんが中心地にある人気のお店で修行をしてるときから常連だったから、他のお客さんがいないとお茶を淹れてくれる。

『今日はミョンホさんも一緒に飲みませんか？お茶請けを持ってきました。』

MH「え？ありがとう。わかった。」

不思議そうな顔をするミョンホさん。それもそうだ。たまに旅行のお土産を持ってくることがあっても、その場でお茶に誘うのは初めて。

MH「どんなおやつ？」

『フルーツ系です。』

MH「はーい。」

もちろん私よりお茶に詳しいミョンホさんは食べものとのマリアージュにも抜かりない。

MH「アッサムキャンディのアイスティー。」

あの日の私の茶葉選びは間違ってなかったなと心の中で答え合わせしてガッツポーズをする。

『どうぞ。プリンとメロンのショートケーキです。』

そう、今日はウォヌさんのケーキを持ってきた。……普通の人はケーキを二つ食べないらしいので、食べ切れるようにウォヌさんが小ぶりに仕上げてくれた。プリンは私のリクエストで、メロンショートは私の反応が一番よかったケーキらしい。

MH「ありがとう。いただきます。」

お茶を淹れる作法もそうだけど、ミョンホさんはすべての所作が美しくて見惚れてしまう。

MH「ん、おいしい。どこのケーキ屋さん？」

『あ、あのミョンホさんに折り入ってお願いしたいことがあって、』

MH「ん？なぁに。」

『このケーキは、秋からお店を開くパティシエが作ったものです。私はそこで喫茶担当、かっこよく言えばそうですが、ただケーキへの熱量と紅茶のセンスを買われて、働くことになりました。
私が今まで一番飲んできた紅茶はミョンホさんの手がけたものです。私の理想としてはイートインで合わせた紅茶を提案することはもちろんのこと、日々の楽しみにひとつケーキを買って帰ってくださるお客様に一杯分のティーバックを付けて、お渡ししたい。そのためにはこのお店の茶葉が必要不可欠です。もしよければうちの店に卸していただけませんか？』

一息に伝えて、頭を下げる。

大切な紅茶をバラ売りするなんてと怒られるかもしれない。

アールグレイ。→←デラウェア。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す