栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ9)

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ナイフ。ページ9

You side

空は高く風が冷たくなってきた。この匂いはウォヌくんと出会った季節の匂いだ。一年前と生きている世界がまるで変わったみたい。初めはジョンハンさんが本を探しに来てくれたんだっけ。あの人は本当の天使かもしれない。

今日は渋谷のビルの一室を訪れる。すごく緊張してる。

ｺﾝｺﾝｺﾝ
？？「どうぞ。」

『失礼します…』

？？「随分久しぶりだこと。」

うさぎさんみたいなふわふわフェイスに似合わぬ、キレッキレの声。

『久しぶり、小夜。』

SY「だいぶまわり道してきたみたいね。」

中学校の頃から仲が良かった小夜。高校生のときは小夜の漫画と私の小説を載せたフリーペーパーを作ったり、大学に入ってからは小夜の絵に私が詩をつけて展示していた。
いつかAの本を小夜が装丁するという約束を果たすために、小夜は美大を出てデザイン事務所に就職したのに、私が小説を書くのをやめたから音信不通になってた。

『おまたせしました。』

SY「ゲラ読んだよ。流石、A。私が思わず手に取りたくなるような装丁に仕上げてあげるから。」

『おまかせでってカッコよく言いたいところだけど、初めての本だから私も色々見たいな。』

SY「もちろん。」

作品のモチーフや色合いを拾って、装丁に落とし込んでくれる小夜は昔と変わらぬ大好きな小夜だった。

SY「よし！今日はここまで。時間ある？飲みに行こう。」

『行く。お酒飲めないけど。』

SY「相変わらず？笑」

夕暮れの渋谷を歩くのも懐かしい。背伸びして洒落た本屋や名画座に行ってた高校時代を思い出す。

「「かんぱーい」」

SY「Aは最近恋人いるの？いないか。」

『いるよ。』

SY「え！あんなに出会いが多い大学生のときいなかったのに？」

よく覚えてるな……

『出会っちゃったみたいで。』

SY「えー、今度合コンの数合わせで呼ぼうと思ってたのに。」

私を？呼んだって役立たずのでくの坊だよ？

『デザイナーは出会い多そうじゃん。』

SY「出会いは多い。でも、ろくな奴がいないから、サラリーマンと合コンする。」

『なるほどね。』

このナイフみたいな子を丸くできる人がいるのかな…。

2軒目も行って、気づいたら日付が変わりそうになってた。

SY「じゃあ、また見本できたら持っていくね。」

『よろしくお願いします。楽しみにしてる。』

バイバイと言わずに突然分かれるところ、昔から変わってない。私より5センチ低い後ろ姿を見えなくなるまで見送った。