栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ49)

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あの場所。ページ49

WN side

『ここであっててよかった。』

「うん。来てくれてありがとう。」

日本橋のAの元職場、あの日俺が待ち伏せしてた出口にAは来てくれた。あの日と同じコートとマフラーしたAの手を引いて歩き出す。

『ねぇ、21時まで開いてるってなんのこと？』

「着いてきて。」

Aは気がついてないのかな。本屋から30分くらい歩いたら見えたギャラリーの光。

「あ、」

『ちょうどやってるみたい。入ろう。』

そう。あの日、俺とAが手に取った画集のアーティストの個展。

涙が浮かんで瞳が綺羅綺羅としてるAの背中を押して、中に入る。

溜息を吐いていっぱいいっぱいになってるAの横顔を今日だけは作品より見てしまうのを許してほしい。

『これ……』

白猫と黒猫が二匹、夜の国を走っている絵。

全部見終わっても、Aは後ろめたそうにさっきの絵を振り返る。もう一度作品の目の前に行って、覚悟を決めた目を戻ってきた。

『お迎えすることにする。』

「うん。いいと思うよ。」

Aが手続きをしてるのを入り口の近くから眺める。

『おまたせ。』

「行こっか。」

『連れてきてくれてありがとう。』

「うん。気づいてよかったよ。」

『どこに行くの？』

「内緒。」

着いたのは待ち合わせしたのと同じ場所。

「A、俺と結婚してくれませんか？」

『はい。こちらこそ。』

花束を受け取ってくれた君の笑顔に心のシャッターを切った。