栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ41)

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You side

クリスマスイブ。ウォヌくんが帰ってくる日。

『よし！下ごしらえ完了！』

夜ごはんの用意をして時計を見たらまだ10時だった。昨日までに仕事納めをしたから、今日から1月4日まで長めの冬休み。去年はシュトーレンをたくさん買って齧りながら、ひとり仕事をしてたらいつの間にか年を越してた。

ウォヌくんは会社やファンのみなさんに挨拶してから帰ってくるから夕方になるらしい。早く会いたいのはもちろんだけど、家で大人しく待つことにした。

ウォヌくんはAは青がよく似合うって言うから買ってみた夜空色のクラシカルなワンピースを着て、家にいるのに珍しくメイクをした。

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ
『はい。古川です。』

「先生！ごめんなさい。運送の最中に火事に巻き込まれてサイン本が焼失して、」

『え、あ、みなさん無事ですか？明日発売日ですよね？』

さっきテレビでちらっと見たニュース、冬は乾燥してるからなぁと他人事として見てたけど巻き込まれたらしい。2冊目の韓国語版の発売が決まって、折角こっちに住んでるんだからサイン本も作ることにして出版社に缶詰めになっていたのが一昨日のこと。サイン本指定で予約してくれた読者も沢山いる。

『っ、出版社の在庫ってまだありますか？』

「ありますけど…？」

『今から書きに行きます！』

『よし！これで足りますかね？』

「はい！本当にありがとうございます。」

『いえいえ。これくらいお安い御用です。』

担当編集者さんに加え、社長と部長までそろって頭を下げられてしまった。

「タクシーが下に着いてますので！」

『ありがとうございます。』

電車の方が早いかと思ったけど、優しさを無碍にすることも出来ないから、タクシーに乗り込む。

「お嬢ちゃん、こりゃだいぶ渋滞してるなぁ。」

『そうですか……』

時間を確認しようとスマホを点けようとしたら充電がなくなってた。30%くらいで家を飛び出したんだった。メーターを見ると16時15分。だんだんと日が暮れてきている。

「おめかししてるけど、デートかい？」

『はい。そうなんです。』

「そりゃ災難だねぇ。」

ちっとも動かない渋滞の中で、どうかウォヌくんをお迎えできますようにと願うことしかできなかった。