栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ35)

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ペン。ページ35

You side

無機質な会議室にペンの音だけが響く。

『あと何冊ですか……』

YM「150冊です。」

アイドルじゃあるまいし、かっこいいサインはないからペンネームをそのままひたすら書いていく。サインというはデザイン性だけじゃなくて書く速さも兼ね備えた素晴らしい文字だということをヒシヒシと感じる。フルネームで古川ひかりと何度も書くなんてほぼ写経みたいなものだ。

SY「遅くなりました～」

『小夜～！』

SY「買えたよ、ケーキ。」

『ありがとうー。』

YM「全部終わったら食べましょうね。」

山本さんの鬼……。昨日は一日で4本も取材を受けたんだから、甘やかしてくれてもいいのに。

SY「エッセイの表紙見本も持ってきたから。」

『エッセイって一冊にまとまるの秋か冬でしょ？』

SY「誰かさんが急に韓国に引っ越しちゃうから、編集者さんが今のうちに作ってほしいって。次いつ帰ってくるかわからないし。」

『ごめんなさい……』

山本さんも小夜も眼光が鋭いよ…二人に見守られつつサイン書きを再開する。

『終わったー！』

YM「給湯室からお湯もらってきますね。紅茶と一緒の方がいいでしょうから。」

『ありがとうございます！』

流石、山本さんわかってる～。手が腱鞘炎になっかと思ったけど、甘いものが食べれると思うと疲れと吹っ飛んだ。

小夜の鞄の横に置かれた本屋さんの袋。

『小夜、なんの本買ったのー？』

SY「今日は雑誌～」

『ファッション誌？めずらしいね。』

SY「推しがが連載持ってる雑誌。あんたどうせ知らないでしょ、SEVENTEENっていうグループなんだけど」

『っっ！？！？…けほけほけほ』

お茶が変なところに入った…。

SY「え、どうしたの。大丈夫？」

YM「あ、古川さんの旦那さん。」

え、あ、え、山本さん、それを言ったらおしまいです……。

『……山本さん、結婚はしてないです。』

いや、私も誤魔化すところ間違えた。

SY「旦那さん？」

実は自宅からオンライン打ち合わせをしたときに、山本さんにはウォヌくんのことを紹介した。私はまだ新人作家だし、週刊誌砲の餌食になることもないだろうけど、一応早めに対策が打てるように穏便に挨拶だけ済ませたんだけど。

『……っケーキ食べよう。』

SY「え、誤魔化すの下手すぎない？」

『山本さん……』

YM「ごめんなさい……」

SY「詳しく説明してもらおうかな♡」

その笑顔が一番怖い。