栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ33)

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黒髪。ページ33

You side

「以上になります。」

『ありがとうございました。よろしくお願いします。』

インタビューにはいつになってもなれない。頭の中は自分にとっても迷宮で、唯一の糸口だと思って執筆中の構想ノートを見ても他人の思考回路を覗いてるみたいだ。

空港から直行してインタビューを一本、このあとは夜ごはんを食べながら詩集の出版社との打ち合わせがある。人と接するのが得意ではないから毎日何件もスケジュールがあるのは疲弊してしまうけど、海外に移住するときからこれは付き物だとわかっていた。

「すみません。荷物を預けている古川です。」

KW「わ、なにその余所余所しい言い方笑笑」

そう、今日は3か月前までの職場のカフェでインタビューを受けていたから、バックヤードで荷物を預かってもらってた。

KW「高橋くん裏にいるよ。私も今から休憩だから一緒に行こ。」

7年間何往復もした通路なのに久しぶりに通ると余所者気分。離任式の日に母校を訪れるのと似た気持ちだ。

TK「え、Aさん？」

『元気ー？元気じゃないか、就活生だもんね。』

数か月前まで規定ぎりぎりの色を攻めてたのに黒く染められて短く切ってある高橋くんの髪。

TK「いや、もう決まりました。」

KW「ここで働いてもらうことになりました。古川も高橋もいなくなったら大変だって店長が全力でスカウト。」

『そっか。よかったね。……よかったのかな？』

初任給はそこまで良くないよ？必死に働いたから私は昇給されたけど。

KW「正社員扱いだから入社したときのAちゃんより給料いいよ笑。」

『うわー、ずるーい。』

TK「いや、本当にAさんのおかげです。」

お土産を渡して最近の良い本を聞いてメモを取る。全部買って帰らなきゃ。

KW「あ、これだけサインお願いしてもいいですか？先生。」

30冊くらい積まれた私の本。

『はーい笑』

TK「でも、Aさんが作家になるなんて。」

デビューしたことは隠して退職した。3月初めにあった授賞式の写真が地方新聞に載ってしまったから、ヒヤヒヤしてたけど。
常連の作家さんに頼んで、サインを書いてもらってたこのテーブルでまさか私も同じことをするとは。

『私もまだ実感がない。自分の本が本屋に並んでてもそこだけ幻みたいに感じる。』

KW「気づいてないと思うんだけど、AちゃんのPOPのファンだったお客さんが買っていくんだよね。やっぱ本能的に惹きつけられるのかな。」

その人たちのために書き続けようと静かに誓った。