栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ32)

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ミスト。ページ32

WN side

練習が終わって帰ってきたのは午前3時。疲れ果ててるときは体がAを求めてる。合鍵で入って、静かにシャワーを浴びて寝室に入る。

「まだ起きてたんだ。」

『おかえり。おつかれさま。』

しばらくAが中で本を読んでたらしいベッドは暖かくて心地いい。

『来週、ウォヌくんカムバでしょ？私も新刊の発売があるから日本帰る。』

「、わかった。」

『作り置き3日分くらいしか出来ないけど、作っていくからちゃんと食べてね。タッパーごとお家持って行ってもいいし。』

俺にはごはんよりAが必要だよ。Aが韓国に来てから2か月、どっちが自宅か分からないほど入り浸ってた。もう帰ってくるのがここだと分かってても不安になる。

「行かなきゃだめ？俺、Aがいなきゃ頑張れないよ。」

『サイン本作らなきゃ、山本さんに怒られちゃう。』

会ったことはないがジフナみたいな編集者を想像する。……うらめしい。俺の肩に凭れて手を握るA。

『5日間だけだよ？四十九日も過ぎたしお父さんの納骨もしてくるから。』

Aは一人で抱え込みすぎて、精神的に落ち着くまでお父さんの骨壺を叔父さんに預けている。でも、長いこと会っていなかった叔父さんだから、預けっぱなしにするのも不安なんだろう。

「付き添ってあげられなくてごめん。」

『ううん。平気だよ。』

平気じゃないよ。Aは覚えてないかもしれなけど、二月にここにいた1週間こっちに引っ越してくるのを決めるまで、夜は泣いて泣いて苦しそうだった。もう家族がいないって泣くAの家族にどうしたら俺がなれるかなってすごい考えたんだよ。

「できるだけひとりにならないで。俺も忙しいけど不安になったらいつでも連絡して。出れなくても必ずかけ直すから。」

『うん。わかった。あのね、これ買ったの。』

サイドチェストから取り出して見せてくれたのは、俺が一番使ってる香水と同じ香りのファブリックミスト。

『ホテルのベッドに振って寝たらよく眠れるかな。あ、でも、本物のウォヌくんがいないからもっと寂しいか。』

明るく見繕ってるけど俺の匂いを求めるくらい本当は不安なんでしょ？……俺も着いて行こうか。いや、カムバなんだった。

「来週まで毎晩泊まりに来てもいい？」

『うん。いいよ。寝坊してミンギュさんとマネージャーさん困らせないようにね？笑』

ライトを消して腕の中にAを閉じ込める。そっと軽いキスを落とす。よく眠れますようにっておまじない。