栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ28)

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独占欲。ページ28

WN side

最近、Aは眼鏡を買った。ずっと着けてたのは線の細い黒のフレームで初めて出会ったときやお泊まりのときのお風呂上がりに着けてたAの身体の一部になってるような眼鏡。
新しく買ってきたのはグレーのクリアフレームでころんとしたフォルムの眼鏡。家で仕事をするようになって仕事と私生活のスイッチが曖昧になってしんどそうだったA。一番身近な物で切り替えれば少し楽になるんじゃないかという試みらしい。

朝方に仕事が終わって仮眠を取ってからAの部屋に向かう。今日は夜からの練習しかスケジュールはない。寝室にもリビングにもいないってことは書斎でお仕事中だろう。書斎まで聞こえない音量でテレビで点けて、ネトフリを観る。

書斎の扉が開く音と微かな足音、お昼どきかなと思ったらもう14時だった。こういうときAが出てきても声はかけない。頭の中で何かが交錯してるのに俺の声でぶった斬ったら大迷惑だ。気づいてないような態度でテレビを見続ける。チチチチチとコンロを点ける音がしたから、ご飯でも作るのかな。マグカップを持って、俺の隣に座るAの顔を覗き込むところんとした方の眼鏡をかけてた。

「お仕事終わり？」

『……うん。』

俺の肩口にぐりぐりと頭をめり込ませる。

『いつのまにか日が登ってた…。』

「……何時から書いてたの？」

夜中に居ても立っても居られなくなって13時間書き続けてたらしい。

「寝なくて平気？」

『頭は疲れてるけど、体はまだ平気。』

疲れてとろんとした甘い瞳に思わずごくりと唾を飲む。そんなことに気づかずに俺の手で遊ぶA。

『私ね、怖いことが二つあって。』

「うん？」

『ひとつめが本が読めなくなることでふたつめが目が見えなくなること。ずっとどっちかと言えば本が読めなくなることが怖くて、目が見えても文字が読めないなら見えない方がましって思ってた。』

「うん。」

『でも今は目が見えなくなる方が怖い。ウォヌくんのことが見えなくなるのがすっごく怖い。』

俺も目が悪いから見えなくなることへの恐怖はすごい分かる。だから、何よりもAといた本よりも俺を失うのが怖いって言われたことに独占欲が満たされていく。

『ごめん、こんなこと話して。疲れてるみたい笑。』

「A、」

見上げた顔に手を寄せて、十分に甘いキスをする。

「頭は使わないけど体は疲れることしよっか。」

黙って首に抱きついてきたAを抱えてリビングを出る、午後2時23分。