栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ25)

今日:322 hit、昨日:369 hit、合計:256,575 hit

手。ページ25

WN side

『んーー……あー？』

こちらはゲラを目の前に頭を抱える古川ひかり先生。今日はオフで、ゲーム機を持ってAの部屋に入り浸ってる。次の休みは一緒に映画でも観たいねと言ってたけど、Aがゲラに追われてるらしい。ウォヌくんが折角いるからとダイニングテーブルに紙を広げて仕事をするA。俺といるときはふにゃふにゃとした笑顔のときが多いから真剣な眼差しが新鮮だ。何も話さずに同じ空間で別のことができるのはAと俺って相性がいいんだなって思う。

『んーー！はぁ。"一息吐こうか。ウォヌくん、甘いもの食べる？珈琲淹れようか。"』

「あー、"うん。飲む。"」

『え、ごめん。日本語話してた？』

「うん。日本語話してた笑。」

Aはエッセイや小説を書いたり読んだりしたあとに話すと無意識に日本語が出る。こっちに住むとAの日本語を聞くことも珍しくなったからうれしい。

『牛乳いれる？』

「いれなーい。」

『はーい』

おやつに合わせてお皿とマグカップを選ぶところが好き。

『今日はジョシュアさんからもらったクッキー。』

「ん、おいしい。」

『最近できたお店なんだって。どっかのスタジオ？の近くにあるとか。』

「ふーん。」

今度ジョシュアにお店を聞いておこう。

『ゲームの進捗はいかがですか？』

「ぼちぼちです。そちらはどうですか？」

『ぼろぼろです笑。』

「夜ごはん、出前にする？」

『いや、ストレス発散になるから作る。』

「夜、本屋さん行きませんか？」

『それは魅力的。夜までに仕事終わるように頑張る。』

仕事を再開するAの食器も回収して洗う。一緒に住んでから知ったのはAは水仕事が苦手。俺は食器洗いや風呂洗いは単純作業だから別に嫌いじゃない。Aが褒めてくれるから喜んでやる。

『おわったー！今何時？』

「おつかれさま。6時だよ。」

『あ、冷蔵庫空っぽだ。』

「本屋の帰りにスーパー寄る？明日の朝は早くないからごはんゆっくりでも俺は大丈夫だけど。」

『そうする！ありがと。』

マンションを出て本屋さんへ歩く。。Aの部屋は俺が見つけてきて、最初は同じマンションに住むのを渋ってたけど5分圏内に趣のある本屋があると言ったら、快諾してくれた。

『まだ夜は寒いね。』

「うん。寒いね。」

人通りがほとんどない道だから、Aの手をポケットに入れる。一瞬険しい顔をするけど、そのまま入れっぱなしにしてたら、許してくれる。

『ウォヌくんの手は温かいね。』