栞を挟むように。Ⅲ〈WN〉 (ページ21)

今日:117 hit、昨日:369 hit、合計:256,370 hit

海辺。ページ21

WN side

「寒いな。」

『風が気持ちいいね。』

Aが海に行きたいと言い出したから、車であまり人が集まらない浜辺まで来た。

波打ち際にしゃがんだAの隣に行って、指先でAの髪を梳かす。空気に冷やされて氷のように冷たくなった伸びた髪。

『迷惑かけてごめんね。』

「ん？」

『強がったり、結局弱気になったり、情けないや。』

「そういうときにAに頼りにしてもらうために俺がいると思ってるよ。」

今のAはこの海の向こうに漂う霧に吸い込まれて消えてしまいそう。

『ひとりぼっちになっちゃった。…みんなバラバラで家族って感じじゃなかったけど。いなくなると寂しくて苦しい。』

「大丈夫、俺がいるよ。」

こうやって抱きしめてやることもあと数日でAが日本に一人で帰ることを考えたら偽善なのかもしれない。

ﾌﾟﾙﾙﾙ

『あ、私だ。ちょっとごめん。』

「うん。」

『"はい、もしもし。……え？本当ですか？ありがとうございます。"』

笑みを溢して、でも涙を流すA。いい知らせかな。

ﾋﾟｯ

『あ、あのね。』

「うん。どした？」

ﾌﾟﾙﾙﾙ
『え、まただ。』

「出な。ゆっくりで大丈夫だよ笑」

どうやら俺の彼女は人気者みたい。

『"はい、そうです。……ありがとうございます！……来週で大丈夫ですか？……失礼します。"』

ﾋﾟｯ
『ごめん。お待たせ。』

「ううん。大丈夫だよ。」

Aが深呼吸をして、話し始める。

『この前出した本が私がずっと憧れてた賞を受賞したって。』

「すごいよ。おめでとう。」

Aを抱き上げてくるくると回る。

『ウォヌくん！重たいから！』

「もうひとつは？」

大きな流木に座って、Aを抱えたまま聞く。

『詩集の出版が決まったって。うれしい。お父さんからの置き土産だ。』

「Aがよく頑張ってたのお父さんも知ってたんだよ。」

『うん。』

良かったって安心したように涙を流すAの手を引いて車に戻る。

車に乗って、いつも通りAが音楽をかける。こんな幸せな時間がずっと続いたらいいのにな。

「A、韓国においで。俺と一緒にいよう？俺がAをいつでも抱きしめられる場所にいて。」

返事がないから助手席を見るとボロボロ涙を流すA。

「え、そんなに嫌だった？ごめん。まだ早かったかな。」

『ううん。私もずっと考えたから。うれしくて。』

「落ち着いたら色々決めような。」

涙を拭いながら何度も頷くAの横顔が綺麗だった。