赤いマフラー。 ページ17
You side
いつも通りの朝。この世界に父がいないという実感が湧かない。倒れたと連絡をもらったときも亡くなったときも泣かなかった私をみんな薄情だと思っただろうか。
いつも通りの用意をして、いつもと違う電車に乗る。
改札前に立ってる赤いマフラーを巻いた男の子。
『ごめんね。こんなことに付き合わせて。」
高「全然。一人で行くには辛すぎるから。」
友だちに着いてきてもらうことも考えたけど、私が泣けないのに向こうに泣かれてしまったらどうしたらいいかわからない。
駅から7分。Aが電車で通学するのに楽なようにと父が選んでくれた家。３年ぶりに鍵を差して開ける。
『……っ』
高「……ただいまでいいんじゃないですか？」
そっか。学生時代だって父より早く帰ってきて、誰もいない家に言っていた。
『ただいま。』
扉を開けてリビングに入ると住んでたときと変わらない。お茶を淹れて、ローテーブルに置く。
『書類探すからここ座ってて』
高「ありがとうございます。」
父は几帳面だったから、重要な書類は抽斗にまとまってて必要なものはすぐに分かった。
廊下に戻って玄関に近い扉を開ける。空の本棚とベッドだけが置かれた8年間暮らした私の部屋だ。
ベッドに新品の毛布が掛けてある。ずっと使ってた毛布は一人暮らしに持っていったから、私が泊まりに来たときのために父が用意してくれたんだろう。なのに私は3年間帰って来ずに外食ばかりで、それで親子水入らずで過ごせるわけがないのに。
枕を抱きしめるとお父さんの匂いがする。本当はお父さんじゃなくてうちの柔軟剤の匂いだけど、でも、私にとってはお父さんの匂い。涙が溢れて止まらなくて息ができない。
高「Aさん、ウォヌさんに電話しましょう？今のAさんにはウォヌさんが必要です。」
ﾌﾟﾙﾙﾙ
「もしもし？」
『……っ』
「A、大丈夫だよ。Aのウォヌはここにいるよ。」
『……ウォヌくっ、』
「うん。」
『なんで、なんで、ここにいてくれないの。』
「ごめんね。」
『なんで、抱きしめてくれないの。』
ウォヌくんの声を聞いてるだけでだんだん落ち着いてくる。
「A聞いて？今ね、仕事そんなに忙しくないんだ。昼間は仕事あるけど夜には帰ってこれる。だから、明日全部終わったらうちに来ない？旅行予約とかどうでもいい。ミンギュもおいでって言ってる。」
『行きたい。ウォヌくんと一緒にいたい。』
「うん、わかった。今日の夜また電話するから。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 886人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すずな | 作成日時：2023年12月8日 4時
