栞を挟むように。〈WN〉 (ページ10)

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ダッフルコート。ページ10

You side

店を出るとまだ17時半なのに日は暮れていた。
昨日から東京駅のイルミネーションが始まったらしい。
高校生の頃からここのイルミネーションが好きで、冬に毎晩見るために丸の内で就職しようとしてた。

就活はうまくいかなかった。
私の性格じゃ爪先が浮くくらい背伸びしなきゃ生きていけないような会社に申し込んでいたから、当たり前の結果だった。

大学のときからお世話になってた川上さんがそのまま社員になる？って言ってくれてなかったら、今ごろ私はフリーターとしてバイトを続けるか、全部嫌になってニートになっていただろう。バイトを含めたら、もう6年もここで働いている。

日本橋から東京駅までは少し歩くけど、今日は遠回りをしよう。
画集と何冊か新刊を買ったのに馬鹿だなぁと自分を笑いながら歩く。
カフェラテなんて飲みながら歩いたらお洒落なんだろうけど、今日は予定より多く本を買ってしまったから我慢。
お兄さんのきらきらとした笑顔を見て、持ってなかった宮沢賢治の文庫本を買ってしまった。

『かっこよかったなぁ』

また思わず漏れてしまった。ただ大好きだったアーティストのこの画集が、1日だけのほろ苦い恋を思い出すものになってしまったから、あのお兄さんをちょっとだけ恨んでみる。

遠くにイルミネーションが見えてきた。本を入れた袋を抱え直して、少し見上げながら歩く。夜になるとまつ毛が凍りそうなくらい寒い季節になったんだな。明日からは手袋が必要かもしれない。

横断歩道の向こう側に背の高い男の人が二人いる。

『お兄さん...？そんなわけないか』

片方は黒づくめだったけど、もう一人はベージュのダッフルコート着ていたから、人違いのようだ。

『こんなところにいないいない...帰ろう』

駅に向かって、踵を返した。