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カーディガン。ページ5

You side

『お疲れさまでした～』

タイムカードを打ち込んで、エプロンを解きながらバックヤードに向かう。

KW「Aちゃんおつかれ～」

社員の川上さんに声をかけられる。

『おつかれさまです。』

KW「今日忙しかった～？」

『平日昼間のシフトが忙しいわけないじゃないですか～』

KW「ふふ、そうだよね～」

猫被りで人見知りの私がここでうまく働けているのは川上さんのおかげだ。年齢は聞いてないけど、多分母と同じくらいの歳、多分。出世が嫌で、30年ずっと販売員として働いていて、やる気がなさそうに見えて仕事は速い。入社したばかりの私を毎週末飲みに振り回していた川上さんは、もう母のいない私にとって心強い存在である。

ブラウスの上から厚手のカーディガンを羽織る。イヤホンを付けようとして鞄を開けたら、昨日作ったPOPを貼り忘れてたのに気づいた。

『POP貼り忘れてたので、フロア行ってきます～』

KW「また作ったの？頑張るね～。」

新刊の小説は出版社からポスターやPOPが届くからもちろんそれで販促を行う。だから、既刊や小さな出版社の本のPOPを作り、貼ることが多い。
本棚を四角四面揃えたい硬派な社員が転勤してきたとき「ヴィレ○ンじゃないんだから」と冷笑されたこともあるが、川上さんが「だったら、あんたがこれより売れる販促を考えな！」と一蹴してくれたおかげで、今も自由にやらせてもらっている。もちろん都心の大型書店だから、あまりポップにならないように、でも見やすくシックにまとめることを意識している。

今日は好きな作家の冬にぴったりだと思っている文庫本と、今日発売の画集のPOPを持ってきた。私がずっと追いかけていたアーティスト念願の初画集、小さい出版社から出てるため配布のPOPはなく、私が気合を入れて作った。作品の雰囲気とこれから来るクリスマスに合わせて、紺と銀色で仕立てた自信作だ。

そういえば、今日この本を買ってくれたお兄さんがいたな。予約分をカウンターに持っていく途中、文庫本の棚に黒づくめで背の高い人が二人いた。少し怖くて通り過ぎようとしたら困っているようで、もちろん店員なので案内をしたら、すごく可愛らしい多分韓国人の方だった。よく詳しくないけどアイドルみたいな人だったなぁ。
画集を買ってくれたのは可愛らしい方の人じゃなくて、もう少し背の高いメガネをかけた人。無愛想かと思ったら、やさしくて低い声でお礼を言ってくれた。

『かっこよかったなぁ』

「誰がですか？笑」