栞を挟むように。〈WN〉 (ページ28)

今日:183 hit、昨日:703 hit、合計:322,028 hit

トナカイ。ページ28

You side

『いらっしゃいませ。お預かりいたします。』

今日はクリスマス前最後の週末。

子どもに贈るのであろうファンタジー小説や歴史漫画の全巻セット、恋人へ贈る美しい装丁の画集をうれしそうに買う人々。

普段からうちを利用してくれる本の虫さんたちが、クリスマスを言い訳に奮発した量の本を抱えて、カードを切っている。

あのあと私も速達で返事を送って、今朝ポストを覗いたらウォヌさんからの手紙が届いていた。仕事後に読むと決めているから、今日はそれで自分を釣って仕事をしている。馬ににんじん、Aに手紙だ。

私は自分が思ってたより健気な人間だったみたい。
業務連絡以外ほとんど話したことがないパートさんにおすすめの韓国ドラマを聞いて、観ているし。高校生の頃に1冊読んだきりだった東野圭吾も5,6冊買って帰って読んだ。

この前の手紙に私の好きな音楽を書いたから、きっと今日のはウォヌさんが好きな音楽を教えてくれる。そしたら、またタワレコに走ってCDを買うんだろうな。

ファンタジー小説の1巻を何冊もスキャンして嫌になってきた頃、午後になって客足が落ち着いた。
多分このまま夕方まで混まない。

「古川さーん、今のうちに休憩入ってー。」

『はーい』

今日はスープジャーにミネストローネを淹れてきた。私も本の虫の例に漏れず、クリスマスに託けて本をたくさん買ったから金欠……。

バックヤードに入るまでのルートにクリスマスの特設コーナーがある。

クリスマスカードか……
電飾が付いたもの、オルゴールが付いたもの、触ったら指に付きそうなくらいきらきらしてるものが並んでいる。

……あっ

陰に一枚入り込んでるカードを手に取る。

『ウォヌさんだ………』

レースのように繊細なデザインの枠の中にブラックレターのメッセージとトナカイが施された青いカード。
青と黒だけで纏められたシックな装いは、ほとんど言葉でしか知らないウォヌさんのイメージぴったりだった。

「ありがとうございましたー。」

買ってしまった……
家に帰ったら、届いてた手紙を読んでこれにお返事を書こう。

友だちに送ることはあっても好きな人にクリスマスカードは

『……初めて…か』

この年になってまだ初めてが残っていたか。
いーー！恥ずかしくなって走り出したくなる。