chapter*1-5...大嫌いだから、生きていて。 ページ5
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朝、珍しく硝子と傑がいなかった。寝坊か、誰かに呼ばれているのか。アイツはいつも遅めの時間帯に来ていたから、今いないことは何も不自然じゃない。任務だって昼間。
まだ、大丈夫と言い聞かせて、教室の扉が開いた。口元を隠すこともせずに欠伸をひとつ零したアイツは、おはよー、といつもと変わりない挨拶をした。その事に安堵しつつ、けれど完全に安心してはいけないと思い直す。
あれがただの夢ならいい。でも、もしも夢でなかった場合、俺はどうすればいいのだろう。
「硝子たちは?」
「知らね」
思考がまとまる前に話しかけられて、低い声が出た。こっちは考え事してんだよ、邪魔しないでくれ。
頬杖をついてそっぽを向いてしまったのをじっと見つめて、考える。今回の任務を辞退しろと言ってもこいつはそう簡単に分かりましたとは頷かないだろう。例え頷いて今回の任務が他の人に渡ったとしても、安全とはいかない。呪術師とは、そういうものである。ましてや、こいつみたいに弱い人間だと特に。
そこまで考えて、そうだ、と納得した。そう、こいつは弱いから。だから簡単に死んでいく。どうして最初に思い付かなかったのか不思議で仕方がない。
不意に振り返ったこいつは、真っ直ぐに俺の目を見て「なんて言ったの?」と聞いてきた。どうやら無意識のうちに声に出していたらしい。
こいつから聞いてくれるなら、好都合だった。
「――お前、今すぐ呪術師辞めろ」
そして、命の危険に晒されないところで安全に暮らせばいい。寂しいだろうから、たまには傑と硝子を連れて遊びに行ってやるよ。だから、辞めればいい。
「聞いてんの?」
返事がなくて声をかける。元々お前だってなりたくて来たわけじゃないって話してただろ。俺が言ったから、辞めた。それでいいだろ。何も都合の悪いことなんてないはずだ。
「……なんで、」
声が、震えていた。
それを知らないフリをして、低い声を意識する。
「は?」
「なんで、そんな、突然」
「そんなの決まってんだろ」
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希乃夏(プロフ) - pixivでも見させて頂いていたものです!!占いツクールでも公開してくださりありがとうございます!!更新頑張って下さい!! (2021年3月22日 12時) (レス) id: 1e5270c5a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仁篠。 | 作成日時:2021年3月22日 11時