第153話「吸血鬼と少年の約束」 ページ27
自分を救ってくれたのは天使とは程遠い，醜い吸血鬼だった。
それを知ったQはどう思っただろう。
手を振り払われるだろうか。怖いと思われるだろうか。
その覚悟は出来ていたのに，彼は一向に何も云わなかった。
「怖く無いの？」
「……何が？」
「私が」
「怖くないよ。確かにちょっとびっくりしたけど，それでも僕を助けてくれたのはおねえさんだもん」
「………そっか」
紅色の瞳が柔らかく細められる。
蓮華は心から安堵したような表情をすると，懐からあるものを取り出した。
「これ，あげる」
蓮華が取り出したのは紅と桜色の花が付いたブローチだった。それをQの服の袖に取り付ける。
「髪飾りの御礼。それに形があれば今日の事を忘れへんやろ？」
人の命は一つの思いに囚われる余裕が無いほど短い。
だから時間が経つほど思い出は記憶と共に薄れてしまう。
しかし象徴となるものがあれば，たとえ薄れても思い出して貰えるから。
「貴方と過ごせてめっちゃ楽しかったよ。
今は暫しの別れかもしれへんけど，生きていればまた会えるから。その時は，また一緒にお出掛けしよう」
「……うん！僕も凄く楽しかった！ありがとうおねえさん！」
携帯を返して貰って太宰が異能を無効化すると，Qは人形を抱えてマフィアの車へ向かった。
去り際，Qはもう一度振り返った。
「おねえさん，ごめんね」
「何の事やら」
蓮華は惚けたが、Qは少しだけ申し訳なく思っていた。
一緒に居たくて携帯を取り上げてしまった事。
自分を諭す為に正体を明かし，異能にかかってしまった事。
しかし，もし許されるなら我儘をもう一つ。
「ねぇ，名前教えてよ」
美しい赤毛の天使は、優しく微笑んで云った。
「花柳蓮華」
「蓮華……蓮華おねえさん」
忘れないようにQはその名を呟くと，満面の笑みを浮かべた。
「バイバイ！蓮華おねえさん！」
彼の言葉を最後にマフィアの車は港の向こうに消えていった。
その姿が見えなくなった時，肩に手を置かれた。
「蓮華ちゃん大丈夫？」
「ええ」
「でも無茶しすぎだよ！下手すればQの詛いにかかってたんだよ！？」
敦の言葉はごもっともだ。
でもQに吸血鬼だと信じて貰うにはこうするしかないと思った。
「蓮華ちゃん。ちょっと話そうか」
「え」
「敦君。先に帰って社に報告してくれ給え」
「は，はい」
太宰の暗い瞳に思わず背筋が凍った。
どうやら彼も相当ご立腹らしい。
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星木雪野(プロフ) - 北見梨衣さん» コメントありがとうございます！気に入って下さって何よりです！ご心配をお掛けしますがこれからも宜しくお願いします！ (2020年3月26日 0時) (
レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
北見梨衣(プロフ) - 体調大丈夫ですか？いつも楽しく読んでます！更新できる時にして無理しないでください。待ってます！ (2020年3月25日 23時) (レス) id: 9b1e229f39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星木雪野 x他1人 | 作成日時：2020年1月11日 0時
