第140話「あの日の出来事」 ページ14
「強くあろうとした結果がこれでした」
大切な人を何度も失って,得体のしれない力に目覚めた。
大人達に利用されてしたくも無い婚約を強要されて。
同級生からはその異質さに恐怖し,中には虐める者も居た。
だけど弱味を見せてはいけない。弱音を吐いてはいけない。一人でも生きていけるように,誰よりも強く。
「本当は,寂しかった」
友達と笑い合ったり,一緒に出掛けたりしたかった。
良家の娘で婚約者候補が沢山いて,人間離れした身体能力と美しさを持つ彼女は,別世界の住人に見えた事だろう。
蓮華も,それに乗じて他人を避けて来た。
「だけど,あの男の人なら,話しても良いと思えた」
あの人は優しかった。
学校で良い成績を出すと褒めて貰えたし,虐められた事を知ると誰よりも怒ってくれた。
この人なら信頼できると思えた。
「でも…私は裏切られたんです」
月が輝く深夜のこと。
あの日,話があると婚約者の男に呼び出された。
『話とは何ですか』
『嗚呼…』
腹部に痛みが走った。
手にはナイフが握られており,自分の腹部に突き刺さっている。
『……化け物め』
『!』
何でそれを,と聞こうとしたがそのまま崩れ落ちた。
痛みに声が掠れじわじわと赤が広がっていく。
『家の為に君を懐柔するよう云われたが,人の血を飲むような女なんかと結婚なんてごめんだね。いつ殺されるか,わかったもんじゃない』
彼には最初から,蓮華への愛は無かったのだ。
優しい仮面を付けて,自分を利用していた。
しかし蓮華が吸血鬼と知って,消そうとした。
『これは正当防衛だ。僕は悪くないよ』
信じていた者に裏切られた事が余程ショックだったのだろうか,反撃する気力もない。
それにこのまま死ねば,もう他人を傷付けずに済むのかも知れない。でも,
“死にたくないなぁ”
蓮華はゆっくりと目を閉じた。
たった一人の吸血鬼の最期。
「私はあの時確かに死にました」
今でも思い出されるあの光景。
あの瞬間,強くある事に疲れて全てを諦めた。
でも痛くて,冷たくて,眼前に広がる“死”に恐怖した。
「その時,誰かの声がしました」
優しい声で迎えに来たと云った。
「目が覚めたら,ヨコハマの河原に倒れていました」
今でも思い出す,夕焼け色の空。
「私はこの世界の人間じゃありません」
これが,吸血鬼になった少女の過去の全貌だ。
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星木雪野(プロフ) - 北見梨衣さん» コメントありがとうございます!気に入って下さって何よりです!ご心配をお掛けしますがこれからも宜しくお願いします! (2020年3月26日 0時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
北見梨衣(プロフ) - 体調大丈夫ですか?いつも楽しく読んでます!更新できる時にして無理しないでください。待ってます! (2020年3月25日 23時) (レス) id: 9b1e229f39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2020年1月11日 0時