第117話「吸血鬼はズレている」 ページ34
太宰が中也の腕に触れた瞬間，身体の赤黒い模様が消えた。
そして力尽きたように地面に膝をつき，血を吐く。
「中也さん！！」
蓮華は中也に駆け寄りその身体を受けとめる。
彼の無事な姿に心から安堵して思わず涙が溢れる。
「……ッ莫迦，何泣いてんだよ」
「ごめんなさい…ほっとしてしまって…」
好いている少女が自分の為に泣いてくれている。
不謹慎かもしれないが，中也はそれだけでも嬉しかった。
覚束ない手つきで桜色の瞳から溢れる涙をそっと拭う。
「折角，勝ったんだから……笑って，くれよ…蓮華」
その言葉に蓮華はコクリと頷く。
そして涙に濡れた顔で優しく微笑んだ。
「貴方が無事で良かった」
泣いた故に掠れた声だった。
中也は満足そうに笑うと，糸が切れたように倒れ込む。
「お疲れ様でした。ゆっくりとお休み下さい……」
そう云って抱き止めた中也の額に唇を落とす。
彼からは若干，血の甘い匂いがした。
そっと唇を離すと，太宰が笑顔で中也を引っ剥がしていた。
「君達は一体…」
スタインベックの言葉に太宰は不敵に笑った。
「悪い奴の敵さ」
蓮華は二人を交互に見て納得する。
あれが裏社会最強と云われた双黒。
『敵わんなぁ』
そう思っていると，太宰が中也を一瞥しながら吐き捨てるように云う。
「………矢っ張りあのまま死ねば良かったのに」
「物騒な事云わないで下さいよ……」
「……元はと云えば君が悪いのだよ」
「え？」
「Qだけじゃなく中也にまで接吻するなんてさ」
「見てたんですか」
油断も隙もないなと溜息を吐くと，太宰はさて，帰るよと歩き出した。
「あの，中也さんは？」
「置いてく」
「酷っ」
しかし彼は如何しても中也を保護する気はなかったようなので，外套と帽子は畳んで置いた。
「………私には，接吻してくれた事ないのに」
まるで拗ねた子供のような、そんな声が聞こえる。
「そんな，こだわる事ですか」
「少なくとも，中也にされて私がされてないのは凄く腹立たしい」
「子供ですか」
蓮華は力無く溜息を吐くと，太宰に近づいた。
そして背伸びをして頬に唇を押し付ける。
太宰の目がじわじわと見開いていく。
「これで，ええやろ」
「……君には，羞恥心がないの？」
「はぁ？そんな生娘じゃあるまいし」
恥ずかしさのベクトルがズレている吸血鬼に，今度は太宰が溜息を吐く番だった。
第118話「天の海をゆく白鯨のありて」→←第116話「汚濁」
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星木雪野(プロフ) - さくさくサックさん» あけましておめでとうございます！随分と遅くなってしまいましたが、喜んで貰えて光栄です！私も乱歩さん大好きなので、また蓮華と絡ませようかなと考えております！汚濁の中也さんも本当良いですよね！！これからもよろしくお願いします！！ (2020年1月2日 13時) (
レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
さくさくサック(プロフ) - ありがとございます!!本当に乱歩さんかっけぇ…汚濁の時の中也かっけぇ…そしてあけましておめでとうございます!! (2020年1月2日 12時) (レス) id: f14b80ed49 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - みんみさん» ありがとうございます！気に入ってくれたようでとても嬉しいです！まだまだ未熟者ですが・これからもよろしくお願いします！ (2019年10月23日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
みんみ(プロフ) - もうどハマりしてます！！ゆっくりで大丈夫ですので続きを楽しみにしてますね！ (2019年10月23日 2時) (レス) id: c8f4f596b6 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 海石榴《ツバキ》さん» 嬉しいお言葉をありがとうございます！これからも頑張って続けて行こうと思いますので、これからもよろしくお願いします！ (2019年10月20日 11時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星木雪野 x他1人 | 作成日時：2019年10月19日 22時
