吸血姫は桜の木の下に舞う 第三幕

第109話「気が進まない仕事」 ページ25

月明かりが妖しげに輝く夜。
二人の影が森の中の小さな小屋の前で止まった。



「あれ，ですか」

「うん。Qが捕われている施設だ」



すると唐突に沢山の照明に照らされる。
背後の茂みから出て来たのは銃を向ける複数の人間と、見覚えのある組合の異能者二人。



「こんばんは。うちの作戦参謀は敵行動の予測が得意なもので」



ハンチング帽の青年，ジョン・スタインベックが笑いながら云う。
蓮華は機嫌良く舌舐めずりをして妖艶に微笑んだ。



「だから真正面から行くのはやめろと云ったのです。
まぁ私にとってはストレス発散に丁度良いのですが…」

「好戦的だねえ，でも君が出る必要はない。……ほら来た」



黒の長髪の男，ラヴクラフトの顔面に巨大な岩が激突する。
男はそのまま後方に吹っ飛んだ。



「うわあアレめっちゃ痛そう」

「矢張り気が進まないねえ」



組合の構成員が巨大な岩を投げた人物に銃を発泡したが、その銃弾は届かなかった。
彼が触れた瞬間に銃弾が地面に落ちたのだ。
こんな芸当が可能な人物を，蓮華は一人知っている。



「最初に云っとくがなァ」



彼は明らかに不機嫌そうな声で太宰を指差す。



「この塵片したら次は手前だからな？」

「あーあ矢っ張りこうなった。
だから朝からやる気が出なかったのだよねえ………」



彼，中原中也の登場に太宰は嫌そうに顔を歪めた。
一方ジョンは焦ったように叫んで，異能の葡萄のツルを展開するが、



「はい悪いけどそれ禁止」



太宰が触れた事で異能が無効化される。



「なっ………異能無効化！？」



彼が気付いた時にはもう遅かった。
中也の蹴りがジョンに直撃して遠くまで吹っ飛ぶ。



「ああ最悪だ最悪だ」

「私だって厭だよ」

「結局二人で片付けてもうたやんか……」



何処か不機嫌そうに紅の吸血姫は頬を膨らました。



「これ私必要ですか？帰って良い？」

「駄目、こんな蛞蝓と二人きりなんてごめんだもの」

「俺だって手前みたいな青鯖死んでも厭だ」

「ええ………」



嘗て黒社会最悪の二人組と呼ばれた“双黒”と、血を操る吸血鬼の戦姫。
今宵，対組合共同戦線_____反撃の狼煙が上がる。

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