吸血姫は桜の木の下に舞う 第三幕

第108話「死神とは」 ページ24

“死神”
蓮華はその言葉に眉をピクリと動かした。
以前，太宰から同じ言葉を聞いた事があったからだ。



「彼なら組合如き一晩で壊滅出来たでしょうね」

「…しかし，あの男は居ない」

「確かに。あれから…もう20年くらいでしょうか」



二人は懐かしそうに話す。
しかし，他の面子は怪訝な表情を浮かべていた。



「“死神”はその名の通り本当の“神”だったのかもしれません。彼は我々には理解の及ばない，異世界のような存在でしたから」



ポートマフィアの首領である森が其処まで云う人物。
二人の知る“死神”とは，一体何者なのだろう。



「楽しい会議でした。続きは孰れ戦場で」



そう云って森は踵を返して歩き出す。



「今夜，探偵社は詛いの異能者“Q”の奪還に動く」

「…それが？」

「今夜だけは邪魔をするな。互いの為に」

「何故？」

「それが我々唯一の共通点だからだ」



【この街を愛している】



「街を生き，街を守る組織として異国の異能者に街を焼かせる訳にはゆかぬ」

「組合は強い。探偵社には勝てません」



そう云い残すと，森は太宰方にに近付いて来た。
傍には真紅の刀を納めた蓮華もいる。



「ではまた太宰君。マフィア幹部に戻る勧誘話は未だ生きているからね。勿論蓮華君も」

「真逆，彼女も私も行きませんよ。
抑も私をマフィアから追放したのは貴方でしょう」



太宰が蓮華を庇うようにして立つ。
鳶色の瞳は光を差していなかった。



「君は自らの意志で辞めたのではなかったのかね？」

「森さんは懼れたのでしょう？
いつか私が首領の座を狙って貴方の喉笛を掻き切るのではと」



その声の冷たさに背筋が凍る。
束の間の沈黙の後，太宰はにこりと笑った。



「鬼は他者の裡にも鬼を見る。…私も貴方と組むなど反対です」



会談は終了した。
蓮華は少し興味が湧いた。自分に似ていると云う“死神”の存在に。



「…“死神”、か」



頭の中でその単語をくり返す。
何だか心の中が厚い雲で隠されているような，そんなもどかしい気持ちになった。



「蓮華ちゃん」



そんな中、太宰が蓮華の肩に手を置いた。



「今夜は一仕事あるから忙しくなるよ。あまり気乗りはしないけどね」

「………何故に？」

「後で判るよ」



蓮華はその言葉に首を傾げた。

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