第8話「二色の瞳が示すものとは」 ページ10
港近くの倉庫にて蓮華は木箱の上に座っていた。
妙に静かなので自分の喉の渇きが鮮明に感じる。
「………本当にここに現れるんですか?」
「本当だよ」
不安そうに尋ねる敦に太宰は答えた。
「心配いらない。虎が現れても私の敵じゃないよ。こう見えて『武装探偵社』の一隅だ」
仮に虎が現れたとしてどう太刀打ちするつもりなのだろう。
疑いの眼差しで太宰を見つめると、彼は胡散臭い笑みを浮かべて返した。
「はは、凄いですね自信のある人は。僕なんか孤児院でもずっと『駄目な奴』って言われてて………
その上今日の寝床や明日の食い扶持も知らない身で」
彼の言葉に静かに耳を傾ける。
「こんな奴がどこで野垂れ死んだって………
いやいっそ食われて死んだ方が………」
「敦さん」
凛とした声に敦が顔を上げると、隣の少女が此方を向いていた。
だが彼女の瞳は優しげな桜色だったのに、今は紅色に変化していた。
「……そんな哀しい事を言わんといて」
「え……?」
「“周りが自分を否定したから”なんて,生を諦める理由にならんよ」
彼女の口調が変わる。
哀しげな表情を浮かべると何かに耐えるように拳を強く握った。
「敦さんは,生きたいと違うん?」
それは、まるで神の問い掛けだった。
紅の瞳から目を逸らせず敦は頷いた。
「………うん」
「なら、大丈夫やろ」
少女は少しばかり泣きそうな顔で微笑んだ。
「その気になれば一人でも生きていけるで」
_____それが吸血鬼と人の大きな違いといえる。
_____吸血鬼は血を飲まないと生きていけない。
もちろん蓮華も例外ではないのだ。
「………」
二人の様子を太宰は静かに見つめていた。
彼女の瞳はいつのまにか桜色に戻っていた。
「却説_____そろそろかな」
太宰が窓から見える月を見上げて云った。
その言葉に二人も月を見上げたその時、
ガタン
「!」
すぐ傍から物音が聞こえた。
敦は振り返って確認するもそこには何もない。
「今、そこで物音が!」
「そうだね」
「きっと奴ですよ太宰さん!」
「風で何か落ちたんだろう」
「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「落ち着いて下さい敦さん」
気が動転している敦を蓮華が宥める。
「今ここで動揺しても混乱を招くだけです」
「彼女の言う通りだよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「どうして判るんです!」
「そもそも変なんだよ敦君」
太宰は本をパタンと閉じた。
第9話「月下獣、此処に降臨」→←第7話「吸血鬼、巻き込まれる」
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星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!気に入って貰えて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年7月31日 21時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
赤砂晋助(プロフ) - この話好きやけんこれからも頑張ってください! (2019年7月22日 9時) (レス) id: 5ddd851753 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 三輪さん» 実はそうなんです!バリバリの関西弁ではないのですが、気に入って貰えて何よりです!これからもよろしくお願いします! (2019年6月24日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
三輪 - 吸血鬼ネタ最高です……!蓮華ちゃんが可愛い。。それとつかぬ事をお伺いしますが、作者さまは関西圏出身なのですか?方言が刺さります! (2019年6月24日 15時) (レス) id: e6d66e6ea7 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!!私も吸血鬼ネタが大好きで作りました!これからもよろしくお願いします! (2019年6月2日 23時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2019年6月2日 17時