第7話「吸血鬼、巻き込まれる」 ページ9
「まあまあ国木田君」
尋常じゃない敵意を向けるなか、太宰の制止の声によって我に返った。
「君がやると情報収集が尋問になる。社長にいつも云われてるじゃないか」
彼がそう云うと国木田は渋々といった様子で手を離した。
「敦君を守りたかったのはわかるけど、少し落ち着きたまえ」
「……申し訳ありません。取り乱しました」
太宰が蓮華の肩に手を置く。
彼女の瞳を確認するともう紅くは無かった。
「それで?」
「……うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです」
そして敦は少しずつ話し始めた。
どうやら孤児院は虎に壊された所為で立ち行かなくなり、彼は口減らしに追い出されたのだと云う。
そして虎は彼の行く先々で姿を見せた。
『…嫌な話』
敦の話が嘘ではない事はすぐに判った。
お前の居場所は無いと云われた気持ちも良く判る。
訳も分からないものが自分に迫る恐怖も。
「それ、いつの話?」
「院を出たのが2週間前、川であいつをみたのが_____4日前」
国木田によると彼の言う通りの日に虎が目撃されていると云う。
「二人共、これから暇?」
「嫌です」
「まだ何も云ってないよ」
「云わなくても判ります。虎探しを手伝えとか云うのでしょう」
「ええっ?!」
「まあね」
にっこりと笑う太宰を睨む。
人喰い虎相手に民間人を連れて行くとは,この男は何を考えているのだろう。
「い、嫌ですよ!それってつまり『餌』じゃないですか!誰がそんな」
「報酬出るよ」
すると狼狽えていた敦が目の色を変えた。
蓮華はドン引きした様子で「金の亡者」と呟いた。
「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」
「おい三人で捕まえる気か?まずは情報の裏を取って_____」
「いいから」
渋々国木田が紙を受け取る。
それに何と書かれているのかはわからない。
敦を報酬で買収された手前,こうなったら自分も行くしかない。
「………面倒くさ」
***
二人に付いていく形で夜の街を歩く。
綺麗な満月に顔を上げ、少し襟巻を解いた。
「あ、やっと顔を見れた」
突然声をかけられて肩を震わせた。
慌てて隠そうとすると彼の手がそれを阻み,襟巻きを首に巻き直す。
「思った通り,とても麗しいお嬢さんだ」
「はぁ…」
「その髪も…隠すなんて勿体ないよ。綺麗な紅じゃあないか」
「…それはどうも」
蓮華はただただされるがままだった。
単純な褒め言葉が淡く胸を擽った。
第8話「二色の瞳が示すものとは」→←第6話「探偵さんの物騒なお仕事」
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星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!気に入って貰えて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年7月31日 21時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
赤砂晋助(プロフ) - この話好きやけんこれからも頑張ってください! (2019年7月22日 9時) (レス) id: 5ddd851753 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 三輪さん» 実はそうなんです!バリバリの関西弁ではないのですが、気に入って貰えて何よりです!これからもよろしくお願いします! (2019年6月24日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
三輪 - 吸血鬼ネタ最高です……!蓮華ちゃんが可愛い。。それとつかぬ事をお伺いしますが、作者さまは関西圏出身なのですか?方言が刺さります! (2019年6月24日 15時) (レス) id: e6d66e6ea7 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!!私も吸血鬼ネタが大好きで作りました!これからもよろしくお願いします! (2019年6月2日 23時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2019年6月2日 17時