吸血姫は桜の木の下に舞う

第33話「一種の探偵修行」 ページ35

太宰が国木田によって締め上げられる中、谷崎と呼ばれた青年がええと、と口を開いた。



「改めて自己紹介すると………ボクは谷崎。
探偵社で手代みたいな事をやっています。そンでこっちが」

「妹のナオミですわ」



“谷崎”に“ナオミ”。
おそらく文豪の谷崎潤一郎、“ナオミ”は彼の作品の登場人物で見た事がある。



『確か、“痴人の愛”やったかな』



蓮華がそんな事を考えている間に、ナオミは谷崎に擦り寄り迫っていた。
その様子に敦はだらだらと冷や汗をかく。



「き、兄妹ですか？本当に？」

「あらお疑い？」



すると妖艶な笑みを浮かべたナオミが谷崎の服の中に手を入れる。
その瞬間蓮華は敦の両目を手で覆った。



「勿論何処までも血の繋がった実の兄妹でしたよ…？
このアタリの躯つきなんてホントそッくりで…ねぇ、兄様？」

「ちょっ、蓮華ちゃん見えない！」

「敦には刺激が強い」



慌てる敦を余所に“あ、アウトやわこの二人”と悟った。
そして彼女の目隠しから解放された敦はふと質問した。



「そういえば皆さんは探偵社に入る前は何を？」



すると一瞬の沈黙が流れた。敦は困惑し、蓮華は首を傾げる。



「何してたと思う？」

「へ？」

「なにね、常番なのだよ。新入りは先輩の前職を中てるのさ」

「それはそれは………」



さしずめ、探偵修行の一環というところか。
考える事は苦手だが中々面白そうだ。



「はぁ…じゃあ……………
谷崎さんと妹さんは………学生？」

「同意見です」

「おっ中ッた。凄い」

「どうしてお分かりに？」

「ナオミさんは制服から見たまんま。
谷崎さんのほうも____齢が近そうだし勘で」

「やるねえ。じゃあ国木田君は？」

「止せ！俺の前職など如何でも」



敦はうーんと考え込む。
そして同じく顎に手を添えて考え込む蓮華に尋ねた。



「蓮華ちゃん判る？」

「え？……敦は何だと思いますか？」

「僕は…お役人さん？」

「お役人さん、ねぇ…」



敦の意見を参考に蓮華は国木田をじーっと見つめる。
当の国木田は居心地が悪そうに目を逸らした。



『多分敦の意見は良い線いってると思うんやけど』



駄目だ、こういうのは自分に向かない。
博識だった彼の人に比べて自分は地面を走り回っていたおてんば娘だったのだから。
だが蓮華はふと思い付いた職業を口にした。



「数学の先生ですか？」



その言葉に国木田を始め、谷崎兄妹、太宰でさえも目を見開いた。

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