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第26話「気に入っちまったからなぁ」 ページ28

蓮華がたこ焼きを食べ終えた頃、ふと中也が口を開いた。



「そういや手前、何であんなとこに居たんだよ」

「街の探検ですよ。あの高いビルの所まで行こうかと」



少女が港の方を指差しながら云った。
その先にはポートマフィアの本拠地がありギョッとするが,動揺を悟られぬよう忠告した。



「止めとけ。あの一帯はポートマフィアの縄張りがある。
もし近づけばまた先刻みたいな危ない目に合うぞ」

「そうですか……残念です」


これなら彼女も判るだろう。
マフィアの苛烈さ、兇悪さは誰でも知っている。
しかし当然彼女はポートマフィアを知らない為,“マジで物騒やなこの世界”と内心思っていた。



「じゃあ先刻みたいな輩が沢山いるのですか?」

「彼奴らだけじゃ済まねえよ。関わったら最悪“死”だ。
悪い事は云わねえから関わるのは止めとけ」

「ふーん………」



少女は青い空を見上げ考え込む。
いくら無鉄砲で怖いもの知らずな彼女でも判るだろう。
先刻のような危ない真似をして欲しくなくて忠告したのに、彼女の返答は予想を遥かに上回った。



「私も、そうなれたら楽やったんかなぁ」

「は……?」

「そうやって割り切って,彼方側に行けたら……楽やったんかなぁ」



何を云っているのか理解しているのだろうか。
今迄の彼女からは想像出来なかった弱々しい声だった。
勝気な笑みを浮かべていた少女の姿は何処にもなく紅色の瞳が悲しげに揺れていた。



「……なあ」

「冗談ですよ。そんな深刻そうな顔をなさらないで下さい」



先程と同じ勝気な笑み。
だが今の彼女は何処か歪でたちまち消えてしまいそうだった。



「深刻そうな顔してンのは手前だろうが」

「ッ!」



そう云って頭を撫でてやると,彼女は驚きで紅の瞳を見開いた。
その表情に自身の口角が上がるのが判った。



『そんな顔も出来んのか』



少女は気恥ずかしそうに,それでいて嬉しそうに微笑んでいた。
瞳に浮かんでいた黒い闇はもう消えていた。
赤い髪に指を通し,ゆっくりと引いていく。



「これ,地毛だよな」

「ええ………変,ですか」

「否,綺麗だなと思ってよ」

「そう,ですか」



闘う姿にその色は華を添える。
小悪魔のような憎めない笑顔も,ふと垣間見えた弱さも,彼を強く惹きつけた。



『嗚呼、魅力的だ』



短い時間,助けられて少し対話しただけ。
それだけだ。でも,



「手前の事、気に入っちまったからなァ」



その呟きは彼女の耳には届かなかった。

第27話「彼女の二つの道」→←第25話「吸血鬼は揶揄い癖があるらしい」



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設定タグ:文スト , 原作沿い , 吸血鬼   
作品ジャンル:アニメ
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星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!気に入って貰えて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年7月31日 21時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
赤砂晋助(プロフ) - この話好きやけんこれからも頑張ってください! (2019年7月22日 9時) (レス) id: 5ddd851753 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 三輪さん» 実はそうなんです!バリバリの関西弁ではないのですが、気に入って貰えて何よりです!これからもよろしくお願いします! (2019年6月24日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
三輪 - 吸血鬼ネタ最高です……!蓮華ちゃんが可愛い。。それとつかぬ事をお伺いしますが、作者さまは関西圏出身なのですか?方言が刺さります! (2019年6月24日 15時) (レス) id: e6d66e6ea7 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!!私も吸血鬼ネタが大好きで作りました!これからもよろしくお願いします! (2019年6月2日 23時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2019年6月2日 17時

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