No.36 ページ36
・
｢お姉さん達こそ、なんでこんな所に来たの？｣
痛いところを突かれ、ギクリと肩が揺れた。
あからさまに動揺してしまった耳郎から気をそらさせるように、梅雨が口を開いた。
｢この子は耳郎ちゃんって言うんだけどね、耳郎ちゃん、つい最近まで病気で入院してて、昨日退院してきたの。耳郎ちゃんの元気な姿が見たくてこの公園で待ち合わせしてたのよ｣
梅雨の言葉は、真実の中に巧妙に嘘を混ぜていた。
林間合宿中にヴィランの襲撃され、毒ガスによって意識不明の状態で病院に搬送された耳郎は、オールマイトが最後のヒーロー活動をした夜、目を覚ました。
歴史的な瞬間をリアルタイムで見れなかったのは残念だったが、何より命が拾われた事に感謝した。泣き腫らした両親の顔を見て、自身は余程の親不孝者だと項垂れたくなった。
そんな耳郎だったが、一日検査入院してから退院という運びになった所で梅雨から連絡が来たのだ。
実は、梅雨と耳郎の家は近くにある。学区が噛み合わず、互いに行き来する事のない立地だったから高校に入学するまで会わなかったものの、互いの住所を知った時は驚いたものだった。
普段は冷静沈着な梅雨から、どこかで会えないかと連絡が来た。街中で会うのもいいが、出来れば人混みから外れた静かな場所で会いたい。林間学校の悪夢は未だ二人の心にべっとりと絡みついて離れていなかった。
後はもう、察して欲しい。
｢災難だったね。お姉さん｣
何も知らないであろう無垢な声に、諸々の罪悪感から少し解放された。
心が落ち着いたところで、耳郎はようやく、少女の名前を知らない事に気付いた。
｢自己紹介が遅れたね。私は耳郎響香。こっちは友達の蛙吹梅雨。よろしくね｣
そう言って手を差し出すと、少女は耳郎の手を見て固まった。
もしかして、警戒されているのだろうか。
｢えっと、私達は怪しい人間じゃないよ。ヒーローの卵なんだ。雄英高校って知ってるかな。そこの学生なんだけど｣
少女の目が大きく見開かれた。
｢雄英高校･･････？｣
その声からは驚愕と、それから僅かに恐怖にも似た感情。
雄英高校といえば、国内最難関の国立高校。そこのヒーロー科の生徒となれば、まず品行方正、堅忍質直を疑われる事は無い。
最初の違和感が、再び訪れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リサ(プロフ) - とても面白いです。続き楽しみにしてます！ (2021年12月7日 20時) (
レス) @page14 id: 942b3344d9 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 面白いです！続き待ってます！！ (2021年12月7日 11時) (レス) id: 159bb94574 (このIDを非表示/違反報告)
クレア - 文が多いのにスラスラ読めて楽しい小説ですね、ここ(占ツク)に少ない雰囲気の作品なので、ちょっとラッキーな気分です(笑)！こういうの、私は好みですよ。 (2021年12月7日 9時) (レス) @page4 id: 730c5fdade (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エリンギ(サブ垢) | 作成日時：2021年12月6日 18時
