No.32 ページ32
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オールマイトが引退した。
近未来的な高層ビル群が一望できるタワーマンションの最上階。上等な黒革の張ったソファーに寝転び、テレビの中継で流れる悲惨な神野を眺めていた。
無尽蔵に個性を使用する凶悪ヴィランとボロボロの体で戦い抜いた彼の拳は、日本中をスタンディングオベーションの渦に巻き込んだ。
見事な最後だった。平和の象徴として、No.1ヒーローとして。
誘拐されていた爆豪勝己も無事に保護されて何よりだ。何せ、Aの元にはヴィラン連合の敵対組織が連署した、“爆豪勝己を取り戻し、雄英高校に保護させろ”という依頼が来ていたのだから。急激に勢力を拡大している新興組織の強力な戦闘要員増加を何としてでも阻止したかったらしい。
義爛の言う通り断ったが。
そういう訳で、ヒーロー達に捕まりかけてからここ二週間、大人しくしていた。
とはいえ。
｢暇｣
セーフハウスというだけに必要最低限の家具がある以外は娯楽の欠片もない部屋をぐるりと見渡して、ぽつりと呟いた。小さな声だったのに、思いのほか反響してびくりとした。
Aには、趣味がない。
生きる為に必死だった。
趣味を持つ余裕なんてなかった。
それ故に、外的要因に脅かされない生活は、何をすればいいのかが分からない。
テレビもスマホも見るが、趣味というより世間の動向を把握したり、仕事への影響を確認するためといった義務感が先行する。スマホの使い方もよく分かっていないから、30分も見ていれば飽きてしまう。
義務教育は受けていたから本は読めるが、いまいち何が面白いのかが分からず、手を出せないでいる。
食事も、成長期の殆どを学校の給食のみで生活している様な状態だったから、胃が小さくて喉を通らない。Aのいた学区は中学校から給食ではなく弁当だったのもあって、今は余計に食が細い。
それに、父親の借金を返しきるまではなるべく金を使いたくなかった。
初めて手にした給料で買ったコンビニのおにぎりに感動して以来は、Aの食事は一日一個のおにぎりか、ゼリー飲料だった。
オールマイトの事実上の引退から約三日。未だ冷めやらぬ凄惨なテロの爪痕が残る中、テレビの街頭インタビューでは、最後までヒーローであり続けた平和の象徴を讃える美麗賛辞が耳にこびりついて離れない。
｢外出るか｣
散歩くらいなら許されるだろう。
Aは微妙な顔をするイマジナリー義爛を無視してソファーから立ち上がった。
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リサ(プロフ) - とても面白いです。続き楽しみにしてます！ (2021年12月7日 20時) (
レス) @page14 id: 942b3344d9 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 面白いです！続き待ってます！！ (2021年12月7日 11時) (レス) id: 159bb94574 (このIDを非表示/違反報告)
クレア - 文が多いのにスラスラ読めて楽しい小説ですね、ここ(占ツク)に少ない雰囲気の作品なので、ちょっとラッキーな気分です(笑)！こういうの、私は好みですよ。 (2021年12月7日 9時) (レス) @page4 id: 730c5fdade (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリンギ(サブ垢) | 作成日時：2021年12月6日 18時
