短編集 (ページ9)

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続きページ9

次の日から、私と彼の生活は一変した。

毎日のように降りかかる罵詈雑言と暴力に、私の体はもうボロボロだった。
日に日に増えゆく青痣と涙の跡は私達の関係の異常さを彷彿とさせる

優しかった彼は、もういない。
彼がくれた新しい「スグリ」というこの名前だって、彼が呼んでくれないのならいったい誰が呼んでくれるというのか。

【スグリ、行こう！】
【これなんてどう？スグリ。】
【スグリ、愛してるよ】

今までの思い出が、走馬灯のように映し出される。
幸せだった頃の思い出が、鋭利な刃物となって心を切り刻む。

痛いなぁ、痛いなぁ。

ボロボロな体とは別に胸が酷く痛んで、自然と涙が溢れる。

彼が魅せてくれた外の世界は、彼の手によって再び閉ざされてしまった。

何が、駄目だったのかなぁ
何が、いけなかったのかなぁ

もう消えてしまった小さな命の灯火。
腹に宿した骸を撫でて、泣きながら子守唄を唄う私は他の人の目にはどう映るのだろうか。
閉ざされた世界の中では、外のことなど分からない。

きっともう、私が外に出ることなんてないのかもしれない。
彼に命の手綱を握られて、彼の一挙一動にビクビクしなければいけないのだ。

るりら、るりら

想ひ出が

くるり、くるくる

まわりゃんせ

思い出が、巡り巡って瞼の裏に映し出されていく。
音のないこま送りの映像のようにざらざらとノイズの音と共に流れてくる。

きっと、きっと、きっと、

きっと…？

そもそも私はなんで殴られてるの？
なんで蹴られてるの？
なんで暴言なんて吐かれてるの？

なんで？

だって私、悪いことしてないじゃない。

そうだ、そうだよ
そもそも私に非なんてないじゃない
私、悪いことしてないもの

じゃぁ、可笑しいのは誰？

あの人(彼)じゃない。

この腹の子は誰の子？
あの人の子じゃない。

あぁ、嗚呼、なんで気付けなかったんだろう
なんで分からなかったんだろう

産んでやれなくてごめんなさい
育ててやれなくてごめんなさい
名前をあげられなくてごめんなさい

私は何をしたらいいの？
私は何ができるの？

復讐、じゃないの？

誰かが耳もとで囁いた。

私は弾かれたように家を飛び出した
外には簡単に出られた

何もかも変わってしまった外の世界は、どこか別の世界みたいだった。

けど、そのほうがいいのかもしれない
きっと皆、私のことなんてわからないから

見上げた空は、青く碧く澄み渡っていた。

あぁきっと、明日の月は、とっても綺麗だ。