短編集 (ページ8)

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私のカレシページ8

痛くて、痛くて、痛い。

部屋に響く鈍い音と、ときおり聞こえる苦しげな悲鳴とも取れるうめき声。
朦朧とする意識の中でそれは誰のものなのかなど、判らなかった。

部屋に広がる重たい雰囲気と沈黙。
これはきっと、普通じゃない。

今日も今日とて殴られていた私はこの状況が異常なのだと気付くのにはさほど時間が掛からなかった。

育児放棄(ネグレクト)を受けていた私は、彼に救われた。

知らない世界の、知らないヒト
最初は怖くて仕方なかった。

けど、同時に彼が浮かべる笑顔が酷く素敵に思えて。
彼に手を引かれて私は、鳥籠の外に飛び出した。

彼は、優しかった。
毎日3食食べれるし、寝床にだって困らない。
初めてのことに右も左も分からない私に、いろんなことを優しくしてくれた。

いつだって優しくしてくれた彼に私は、いとも容易く恋をした。

途切れ途切れになって、つっかえながらも想いを伝えると、彼はいつもどおりの優しい笑みを浮かべて私のことを受け入れてくれた。

幸せだった。
彼以外、何も要らないとさえ思えるくらいには。

けど、幸せというのは長くは続かなくて。

もう少し後からだっただろうか
けどきっと、このくらいからだったはずだ。

彼が、壊れたのは。

少しだけ、体に異変を感じて、調べてみたら、子供ができていた。
腹の底から生命の息吹を感じて、全身に鳥肌が立った。
歓喜が身体中を駆け回って、涙が溢れた。

彼だったらきっと、喜んでくれると。
一緒に愛してくれると。

確証もないのに、根拠のない自信がみなぎっていた。

いつかの私のように途切れ途切れになって、つっかえながら
「子供ができた」
と、そう伝えた。

俯いた彼からは何の音沙汰もなく、心配になって彼の顔を覗いた私は数秒後に酷く後悔した。

彼の瞳には何の光も無くて、底冷えするような冷ややかな視線を称えていたから。

下から覗き込んだ私は必然的に見下される形になって、見たこともない彼の異様な形相にびくりと肩を震わせた。

普段の彼からは信じられないような低く、冷たい声が静かに響いた。
その一言で私は絶句した。
何故なら、彼からは絶対に出ることがないと思っていた言葉だったから。

彼に言われた言葉
それは

「堕ろせよ」

その一言だった。