短編集 (ページ38)

今日:9 hit、昨日:0 hit、合計:1,316 hit

美しい修道女とイカれた男のお話ページ38

「ねぇ聞いた？修道院の噂」

「なぁに？それ」

「えぇ！知らないの？最近すごく話題になっているのよ？
……なんでも、修道女様が夜中に忘れ物に気付いて、お祈りするところにいったんですって。」

「それで？」

「そこに、1人で跪いている修道女様がいたらしくて、声を掛けようとしたら……」

「したら……？」

「血まみれの男の首にかぶりついていたんですって！」

「えぇ！そんなことがあったなんて……怖いわねぇ。」

「でも、修道院にはもうヴァンパイアハンターが向かったらしいわよ。」

「それでもちょっと怖いわ……あら、もうこんな時間！そろそろ帰らなきゃ！」

「本当だ！じゃあ、またね！気をつけて！」

窓から射し込む明るい光で目が覚めた。

俺はしがないヴァンパイアハンターだ。
最近、この修道院にヴァンパイアがでたと騒ぎがあったらしく、急遽こちらに向かわされた。
最初はつまらないものだと思っていたのだが、案外そうでもなかった。
なぜかって？この修道院には美しい修道女がいたからさ。

名前はベリーシモ。異国語で「美しい」という意味らしい。
その名の通り、彼女は本当に美しかった。

淡いラベンダーが入っているらしいベリーシモの艶やかな髪は、光の当たり方によって何色にも見えるため、虹色の髪と呼ばれていた。
夜空を溶かして流し込んだような深い藍色の瞳は、星をちりばめたようにキラキラと輝いている。

浮き世離れしたベリーシモの美しさは、神話に登場する「愛」を司る女神ソフィアと「叡智」を司る女神フィーロにも引けをとらないとまで言われているほどだった。

でも、彼女が美しいと呼ばれるのにはもう1つ理由があった。
それは、誰にでも分け隔てなく接する寛大な心となにを言われても謙虚に受け止める姿勢だった。

そんな話を聞いて、ベリーシモが欲しくなった。彼女のすべてを知りたくなった。
彼女の化けの皮を剥がして、醜いところを見せつけたいと。
嬲って嬲って、骨の髄まで愛撫してやりたいと。確かにそう思った。

その日から俺はベリーシモに近づいて、彼女の弱みを握ることに専念することにした。

ベリーシモの瞳が、ぎらぎらと光っていたことも知らずに。