短編集 (ページ36)

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続きページ36

『せ、先輩？』

返事がなくて不安になったのか遠慮がちに聞いてくる画面の先の彼。

「あ、いや、ごめんなんでもない」

『そうですか…？』

「うん、全然平気」

『よかったぁ、』

ほっとしたように息を吐いた彼はきっとふにゃりと微笑んでいることだろう。

画面で隔てられているはずなのに彼のことが鮮明に思い浮かんで、「私、これじゃ変態みたいだな…」と思い邪念を振り払う。

そこから他愛もない会話をしているうちにお酒を飲む手が進んでだんだんと頭がふわふわしてくる。

そしてついにぽつりと溢れてしまった私の言葉は気まずさだけを残して部屋に溶け込んでいった。

「＿＿＿＿会いたい」

『ぇ、』

しまったと思った時にはもう遅い
お酒で緩くなった口は言うことを聞かずに喋り続ける。

やばいやばいやばい、頼む、頼むから止まってくれ！！

『…先輩、今から会いに行ってもいいですか？』

「んぇ？あぁ〜…いいよぉ〜」

もういいや、と思考を殴り捨てて緩く返事をすれば『ありがとうございます！！！』と元気すぎる返事が聞こえてぶつりと電話が切れた。

…やってしまった

言ってしまったことは仕方ないし、取り敢えず片付けようと立ち上がってのそのそと机の上を片付ける。

しかしそれがいけなかった。

ピンポーン

……え？

恐る恐るモニターを見ればそこにいたのは紛うことなき彼だった。

どうしようと脳内をフル稼働させるが酔った頭ではろくな考えが出るはずもなく、結局彼を家にあげることにした。

「お邪魔します、」

「何もなくてごめんね…」

興味津々といった様子で部屋をきょろきょろと見回す彼に犬耳と尻尾が見えた。

「ごめんね急に変なこと言っちゃって」

「僕は先輩に会えて嬉しいです！」

ああもう、どうしてこうも勘違いしてしまうようなことを平然と言ってのけるのか…

いやまぁそれが彼の良いところなのだけど。

「え？」

彼の困惑したような声が聞こえて何かと思えば自分が何かに触れていることに気付く。

「ゃ、あの、先輩？」

そこでやっと自分が彼の頭を撫でていたことに気づいた。

「あっ、ごめん！つい"可愛くて"…」

彼がぴくりと動かなくなる

「どうしたの…？」

不安げな私とは対照的に形のいい笑みを浮かべる彼

「先輩、今年のクリスマスプレゼント、まだですよね？
＿＿僕のこと貰ってもらえませんか？」

「……え？」

「可愛いだけじゃ、ないんですよ？」

その後、何があったかわかるのは、静かに降り積もる雪だけ。