短編集 (ページ33)

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「───勿論、お断り。」

「、は？」

今度は彼が、間抜けな声を出した。

「なんで、」

「なんでもなにも、私は浮気するような人と一緒にいたくないもの。
……そもそも、進展がないのだってそもそも貴方にその気がなかったじゃない。」

生憎、私もそこまで優しくないし、なんだったらドライと呼ばれる類いの人間である。
1度自分を捨てた男を再び愛せるほど寛容な心の持ち主ではない。

だからこそ、彼の言葉に本当に失望した。
もうこれ以上話すことはない。

さっさと帰る準備をしていれば、いかにも悲劇のヒロインぶったような台詞を汚い声で叫ぶ彼がいた。

……気色悪い

もうなにを喋っているかも聞く気が失せた。
テーブルの上に千円札を滑らせ、ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼を尻目にカフェを出た。

空には分厚い雨雲がかかっていて、ぱらぱらと雨が降り始めていた。
備え付けてある傘を1本借りることにして、私は躊躇うことなく歩き出した。

雨が降っているというのに私の足取りは軽やかなものだった。理由はわからない。
ただ、少なからず不快感はなかった。
雨が一抹の期待ともやもやを流していってくれたから。

これで踏ん切りがついた気がする。
本来の目的の買い物をしないまま、真っ直ぐに家へ向かった。

着替えもせずにベッドに身を投げ出す。
ボスンと音がして体が沈んでいくのが分かる。

私はすぐさまバッグからスマホを取り出して、見慣れたトークアプリを開いて、見慣れたアドレスを選択する。
目の前の画面には"消去"の赤い文字。
私がそれを躊躇なく押すと、一瞬ロードして彼のアドレスは、消えた。

これでやっとせいぜいした。
これで今度こそアイツと会うことはないだろう。

もうなにをする気力も湧かなくて、部屋着に着替えてそのまましばらくだらけていた。

ぐぅ

静かな部屋で腹の虫が鳴いた声が聞こえた。

そういえば何も食べてなかった……

何か作る気にもなれなかったため、近所のファミレスで適当に済ませることにした。
適当に着替えて、軽く化粧を済ませて外に出ると、いつの間にか雨は止んでいた。

なんとなく空を見上げるとそこには分厚い雨雲の変わりに大きな虹がかかっていた。

なんだかいいことがありそうだな、なんて思いながら歩いていた矢先に誰かとぶつかった。

「あっ、すいませ、ん」

「こちらこ、そ、」

目と目が合った。

嗚呼やっぱり、私もかなり薄情な人間らしい。