短編集 (ページ29)

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23時45分

地球が終わる15分前。

最初から、夢ならよかったのに。
そう、夢ならこんな思いをしなくて済んだのに。

でも、なぜだか頭のどこかでそれを拒んでいる自分がいる。
だからなおさら、わからない。

23時50分

地球が終わる10分前。

聞いたこともないような轟音が空気を揺らした。

驚いて空を見上げれば、白銀(はくぎん)の尾をたなびかせた無数のほうき星が、淡紅藤(うすべにふじ)の空を埋め尽くしていた。

日が昇るはずない時間に空が明るくなり、雲は晴れ、星と月が世界を見下ろしている。
畏怖の念を覚えるほどに美しいその世界は、まるで夢の中にいるような気もした。

これから地球が滅ぶのするなら、先ほどの轟音は世界の終末を告げるラッパの音、とでもいったところだろうか。

夢を見ている気がするし、現実にいる気もする。最早諦めに等しい思考は働くことを止め、自分でも驚くほど、心は凪ぎいでいた。

23時55分

地球が終わる5分前。

「久しぶり。」

後ろに懐かしい声が聞こえて、すぐさま振り返る。
そこにいたのは、紛れもなく死んだはずのユメだった。

「───は、？」

なんで死んだはずのユメがここに？
いや、そんなことよりあれは本当にユメなのか？
そもそもユメが死んだときはあんな服を着ていたか？

考えれば考えるほど疑問が頭を埋め尽くすが、1つ言うとするならば、あれは、ユメであって、ユメじゃない。

ユメは、死に際にはもっと雑巾を繋ぎ合わせたような襤褸(ぼろ)を纏っていたはずだ。
しかし今はどうだ。膝丈くらいの真っ白なワンピースを纏って、手には何やらラッパのようなものを持っていた。

その姿はさながら終末を告げるラッパを吹く天使のようだった。

そこまで考えてやっと気づいた。
これはきっと、夢だということに。

そう、世に言う白昼夢というやつだろう。
覚醒時に現実で起きているかのような空想や想像を夢のように映像として見る非現実的な体験、または、そのような非現実的な幻想にふけっている状態、だったか。

23時59分

地球が終わる1分前

もう1度だけ、ユメの方をちらりと見る。
一緒にいた頃と何ら変わらない、花が咲いたような笑顔のまま、1ミリたりとも動こうとしなかった。

やっぱり夢なんだ、と少しだけ、ほんの少しだけ、落胆にも似た諦めを覚えたとき、遂に世界は終わりを告げた。

西暦3000年 1月1日 00:00分

地球、滅亡。