短編集 (ページ18)

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カミサマの祝福ページ18

あぁ忙しい忙しい。
ピアノにヴァイオリンに塾に……あぁいけない、復習と予習もやらなくちゃ

今日も今日とて勉強勉強、疲れただなんて思ってはいけない。
だって私は優等生だから。

ぐるぐるぐるぐる

やらなきゃいけないことが頭の中を支配する。
あれとそれとこれと……
考えているうちに誰かにぶつかってしまった。

「あ、、すみませ、ん、」

顔をあげて相手を見れば、思わず言葉が途切れた

なぜならそこには、水干と呼ばれる着物を纏った少年が立っていたから。
しかも、肝心の顔は狐の面を着け、上半分が隠されている。

驚いて咄嗟に辺りを見回せばそこはいつもの閑静な住宅街なのだが、何かが違った。
人の気配がまったくしないのだ。
まるでここだけ別の世界、そう、言うなればパラレルワールドのような、そんな感じがした。

ぽつり、と、頬に落ちてきた一粒の雫が私の思考を現実に引き戻した

おかしいと、すぐさまそう思った。
だってここは、道のど真ん中で、軒下でも電線の下でもない。
先ほどまで雨が降っていた訳でもなく、空に広がるのは紛れもない晴天で、秋の終わりのような少し濃い青色の空だったから。

もう一度少年の方を見れば、驚くことに宙に浮いていた。

呆然と少年の方を見つめていると、真水のような、穢れを知らないどこかあどけなさの残る声が、どこか不思議な空気を裂いて、私の耳に届いた。

「ねぇ、君は、幸せ？」

突然だったその問いに私は、すぐに答えることができなかった。
一瞬でも自分の人生に疑問を抱いてしまった。

私はこのまま親の言いなりになって飼い殺されるのか、？

と、そう思った。
しかし、そんな疑問はすぐさま振り払った。

なんてことを考えているのだ、私は。
ここまで育ててくれたのは誰だ？
学校に通わせてくれてるのは誰だ？

すべて親じゃないか。
なに不自由なく生活できているじゃないか。

こんな考えは、やめよう。

だって私は、優等生なんだから。

たっぷりと時間をおいて少年の方を見上げれば、少年は、私の思考を読んだかのように、感情が読めない笑みでこう言った。

「じゃあ、確かめてみようか。」

「……は？」

先ほどまで空に広がっていた晴天はいつの間にか、曇天に変わっていた。