短編集 (ページ15)

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I can't escape. ページ15

「ただいま～」

不自然なほどに静まりかえった廊下と心なしか漂う鉄っぽい異臭に違和感を覚えた。
なんだか胸騒ぎがして、廊下を進んで異臭のもとに辿り着く。
数秒後、大学の講義が終わり帰って来た私は、目の前に広がるその光景に、唖然とすることになる。

目の前に広がる赤錆色に染まった、その部屋の中心に無表情で佇む彼は、ただただ異様でしかなった。
しかし、部屋と同じく赤錆色に染まったソレは、紛れもなく私が知る彼であった。

「あ、おかえり！」

私が帰ってきたことに気付けば、先ほどまでの無表情が嘘のようにパッと微笑んで駆けよってくる。

「はぁ……またやったの？」

「うん、またやっちゃった！
　でもさぁ、こいつら蕣(しゅん)に近づこうとしてたの……許して？」

できる限り優しく問いかければうるうると効果音が着きそうな上目遣いて見上げてくる。

「しょうがないなぁ、菫は。ちゃんと片付けてね。」

「はぁーい！」

そう、私の彼こと菫は、世に言う"ヤンデレ"とか、"メンヘラ"などと言われる部類の人間である。
まぁ、彼の逆鱗にさえ触れなければ「少し重めな恋人」の枠に収まるだろう。

着替えるために自室に戻ろうとすれば、彼も「汚れたから俺も～」と言ってついてこようとしたため、汚れるからシャワーを浴びてこいと軽く叱ればお馴染みのあの言葉が飛んでくる。

「そんなに俺と離れたいの？なんで？どうして？俺のこと嫌いになったの？」

「ねぇ蕣！なんか言ってよ！」

腕からギリギリと嫌な音が鳴る。

あーぁ、こりゃまた鬱血してるだろうなぁ、
でも、それより今は菫を抑えるのが先かなぁ。

思い立ったら即行動。

菫に捕まれてるのと逆の手をぐいと引き寄せて抱き締めると、菫からは「え、？」なんて気の抜けた声が聞こえてくる。

「そんなことないよ、私は菫のこと大好きだよ。」

「でも、蕣、俺のこと嫌いで、離れたくて怒ったんじゃないの？」

「そんなわけないでしょ。菫は、私のこと嫌い？」

菫の目を見てそう問えば、ふるふると力なく首を振る。
全く、しょうがないなぁ、菫は。

「私も一緒。だから、そんなこと言わないで？」

「……大好きって言って」

ぎゅうと抱き締められて、あぁ私、逃げれないなって思う。

「菫、大好きだよ。愛してる。」

「……ごめんなさい」

「いーえ。
　さ、この話はもう終わり！早くシャワー浴びておいで。一緒に晩御飯食べよ？」

「うん！」

でもまぁ、今はまだ、このままで良いや。