サディストの幸福理論［続きです］ (ページ6)

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12話ページ6

それでも現状が変わることはなくて、二人で諦めかけてたときだった。

アヤカさんが口を開いたのは。

「…ねぇ、りのちゃん、ちょっとした相談っていうか、提案があるんだけど…いいかな？」
『ん？あぁ、私が聞ける範囲であれば。』

「…ありがとう。早速なんだけど、私のこと、殺してくれない？」

『…は？』

思わず自分の声とは思えないほど低い声がでた。
そのままの意味だろうに、困惑して聞き返す。

『ちょっと待って、どういうこと？』
「言葉の通りだよ。私のこと、そのナイフで殺して？」
『なんで？二人だけでも無事に帰れる方法、探そうよ』
「だってこれだけ待っても何もないってことは、そういうことでしょ？だからさ、私のこと、殺してよ。」
『考え直してよ…！アヤカさ「私だって嫌なの！」…』

言葉を遮られた代わりに、真っ直ぐと、アヤカさんのダークブラウンの瞳を見つめる。

アヤカさんは少し怯えながらも、負けじと私の瞳を真っ直ぐ見つめ返してきて、強く言う。

「もう目の前で人が死んでいくのは嫌なの！ましてや自分の手で殺すなんて考えたくない！だから…お願い、りのちゃん。私を殺して…！」

アヤカさんは悲しげに当惑しきった顔つきでそう訴えてきた。

不安、困惑、恐怖、怒り。その顔にはそれらが混ざりあった様々な感情が渦巻いている。

『…わかった、わかったよ。だからもう、そんな顔で頼まないで…』

「ありがとう、りのちゃん。…こんなことさせてごめんなさい。」
やめて。そんな辛そうな顔で謝らないで。

「嫌な役だけ押し付けて、ごめんなさい。」
そんな目で見つめないで。

「辛いことって分かってる。やりたくないことだって分かってる。でも、もうこんなの耐えられないの…ごめんなさい。本当に、ごめんなさい…」
お願いだから、もう、

『謝らないで…お願いだから、謝らないでよっ……！』

一番最初に固く決めたはずの覚悟はその表情を見た途端、ガラガラと音を立てて、一瞬で崩れ去ってしまった。
ああほら、私まで泣きそうになるじゃないか。泣いたら怒られるのに。殴られてしまうのに。

(泣いたら、駄目なのにっ…！)

瞳から止めどなく溢れる涙は、止まることを知らないようで、止まるどころかアヤカさんまで泣きだしてしまった。

涙が収まってアヤカさんの方を見ると泣き腫らして真っ赤になった目でこちらを見据えていた。どうやら覚悟が決まったようだ。

あとは、私だけだ。