第九十二話 ページ12
その後動揺のあまり三度失敗したが、五度目の正直といったところで、なんとかラインを引き終わった。 そしてすぐに恋桜ちゃんに連れられてとある部屋の前へと連れられる。
「そこの部屋です」
「…わかった。 ありがとう、恋桜ちゃん」
部屋の少し前で恋桜ちゃんは私に道を譲ると、心配そうに私の顔色を伺った。 ほんとは緊張してるけど、表情筋を酷使してにこりと笑っておくと、恋桜ちゃんも少し口角をあげて、会釈をしてから仕事へと戻って行った。
よし。 と、意を決して、自分なりの美しい姿勢で正座をすると、襖を開く。 目をぎゅっと瞑って、深々と頭を下げると、頭上から声がかかって、その声色に肩の力がふっと抜けた気がした。
「顔上げて。 …待ってたよ、来てくれてありがとう」
顔を上げて、その人と目が合う。
「赤葦、様」
「…そんな顔しないで。 今日はただ、会いに来ただけだから」
襖をピタリと閉めると、赤葦様が私の側まできて、そう手を差し出す。 ばくばくと緊張で激しく脈打っていた心臓が、ほんの少しだけ緩やかに動き始めた気がした。
「こっち来て。 少し話がしたいな」
とろけるほど優しげな口調に、恐る恐る手を差し出すと、赤葦様はその手を優しく包み込んで私を座敷の奥までエスコートした。 本当は、こんなこと遊女としてダメなんだけどね。 女将さんたちにはバレませんように。
「びっくりしたでしょ」
「え、あ…」
「すごい怯えた顔してたから」
「…ごめんなんし」
広い座敷にふたりきり、真ん中に二人で座ると、赤葦様はそう言って笑った。
私は、既に並べられた御膳から徳利を持ち、赤葦様の持つ御猪口にとくとくと注いだ。
「謝らないで。 そんなつもりで言ったんじゃないから。 ただ、この前怖がらせちゃったか気になっただけ、っていうか…」
「あ、いいえ、わっちは大丈夫でござんす。 そんなことまで、ありがとうござりんす」
「…そっか」
赤葦様は、ぐ、と注がれたお酒を飲み干して、心底嬉しそうに、ふふ、と笑った。 なんだか花が咲くみたいな笑い方だなあ。
「ね、お願いがあるんだけど、いいかな」
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多趣味のM(プロフ) - そこで!?って叫んじゃいましたw続き気になります!!更新待ってます!! (2020年10月18日 15時) (レス) id: 2c30e4e7ea (このIDを非表示/違反報告)
ねこ。 - 今まで読んできた吉原の小説で一番面白い作品です!頑張って下さい!私は作者様を応援しています! (2018年4月28日 12時) (レス) id: 8444393bfc (このIDを非表示/違反報告)
まむ(プロフ) - 何度も読み返させて貰ってます!大好きです!また更新されるのをまってます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: f3b21a5c27 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 最初から楽しく読ませて頂きました!とても面白く、素敵な作品に出会えて嬉しいです、!それと同時に続きがとても気になります、、もう更新される予定は無いのでしょうか?大変だと思いますが、大好きな作品ですので更新楽しみに待っています!! (2018年1月29日 22時) (レス) id: f709374f1c (このIDを非表示/違反報告)
おばりょん(プロフ) - まだ、完結してませんよね??これからも応援してます! (2017年8月7日 16時) (レス) id: 571bd0a238 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星月夜 | 作成日時:2017年3月26日 8時