第九十一話 ページ11
−−−−柔らかな唇に、紅を滑らせる。
一人前の遊女になってから、今日でやっと一週間が経った。 月島様の件があってから、あの厄介なVIPたちは私の前から姿を消して、最近はまともに仕事ができるようになってきている。
そして、本当に、私には夜の仕事が回ってこない。 一体全体どうして、どうやって、そんなことができるのだろう。
今まで、なりたくなくてもそうなれ、と教えこまれながら様々なことを学んできたのに、いざこうなると心にはぽっかりと穴が残って消えない。
「…うわ」
そんなことを考えながら、目元へも赤でラインを描く。 だが、今日はどうして、調子が悪く失敗してしまう。
急いで化粧落としを使って、コットンで目元を拭き取った。 だがその時、いきなり自分の部屋の襖が開かれて、ぎょっとする。
「A姉さん!!」
「ふあっ!? 恋桜ちゃん!?」
呼吸を乱して部屋に入ってきた人物は、なんと恋桜ちゃん。 いつもは必ず襖の縁をノックして、声をかけて了解をとってから入ってくるというのに。 今日はどうしたのだろう。
「すみませんお声がけもなしに!」
「いや、いいんだけど…」
「あ、それで、聞いてください! お客様がA姉さんを連れてきてほしいって言ってるらしくて、女将さんに連れてくるよう頼まれたんですよ〜!」
ピシリ、本能的に不穏な気配を察知して固まる。
「…お客様って、誰だかわかる?」
「すみませんそこまでは伝えられていなくて」
考えすぎかとも思うが、開店直後、私が入る二十分前のこの時間に、女将さんが恋桜ちゃんを遣いに出してわざわざ私を呼び出すほどのお客様。 やっぱり厄介な面々しか思い浮かばない。
「い、今すぐ行くから…、部屋の前で待ってて…」
私がそう言うと、恋桜ちゃんは申し訳なさそうな顔をして会釈をすると、襖をぴたりと閉めて外へと出た。 そうして私は、重たい気持ちを引きずらないように、心を無にしてラインを描く。
「あ」
…失敗したんだけど。 もう無理。
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多趣味のM(プロフ) - そこで!?って叫んじゃいましたw続き気になります!!更新待ってます!! (2020年10月18日 15時) (レス) id: 2c30e4e7ea (このIDを非表示/違反報告)
ねこ。 - 今まで読んできた吉原の小説で一番面白い作品です!頑張って下さい!私は作者様を応援しています! (2018年4月28日 12時) (レス) id: 8444393bfc (このIDを非表示/違反報告)
まむ(プロフ) - 何度も読み返させて貰ってます!大好きです!また更新されるのをまってます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: f3b21a5c27 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 最初から楽しく読ませて頂きました!とても面白く、素敵な作品に出会えて嬉しいです、!それと同時に続きがとても気になります、、もう更新される予定は無いのでしょうか?大変だと思いますが、大好きな作品ですので更新楽しみに待っています!! (2018年1月29日 22時) (レス) id: f709374f1c (このIDを非表示/違反報告)
おばりょん(プロフ) - まだ、完結してませんよね??これからも応援してます! (2017年8月7日 16時) (レス) id: 571bd0a238 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星月夜 | 作成日時:2017年3月26日 8時