第八十五話 ページ5
「A」
「夜久さ、ま…?」
名前を呼ばれ、繋がれた手をぐい、と引っ張られて体が向き合う。 一体全体どうしたのか、そんなことを考えていると、顎に手を添えられ、お互いの顔が近づいていく。
なに、今、何が起ころうとしてるの。
すぐ目の前に迫る端正な顔に、思考が全然追いつかなくて、はっとした時にはもう、ほんの数ミリの距離。
我に返って、夜久様と名前を呼んだ。 いつも通り発したはずの声は何故か震えていて、一体今がどんな状況なのか、頭できちんと理解しているようだった。
「あ………、わりぃ……」
夜久様は、私の目を見て数秒固まった後、眉をしかめるような悲しげで悔しげな顔をしてから、そう言った。 少し私から距離をとって。
「ごめん、なんし…」
「や、俺の方こそ、ごめん」
…わかってる。 夜久様の気持ち。 いや、わかってたつもりだったんだ。
夜久様が私を本気でそう思ってくれてるってこと。 昨日と今日で、だいぶ。 それも自分が単純ずぎだからかもしれないけど。
ただ、本気で好きだってことは、こういうこともしたいってこと。 手を繋いで楽しくお出かけなんて、私がこの気持ちを受け入れたら、きっとそれだけじゃ不十分。 それが、自分の中で結びついてなかった。 最悪なかたちで出てきた自分の恋愛経験不足。
「き、気にしてござりんせん、わっちは。 ほんに。」
「…そうか」
「ああ、もう見えてきんした。 ここまでで大丈夫でござんす。 今日はすごく、楽しゅうござんした。 ほんに、ありがとうござりんした」
「俺も。 …また誘うな」
「あい、ぜひに」
吉原が見えてくると、逃げるようにして会話を切り上げ、会釈を交えながらその場を去った。
知ってる。 ちゃんと断らなきゃいけないことだって。 いくら夜久様が優しいからって、今までに見たこともない世界を見せてくれるからって、結婚だなんて全く考えられない人に甘えるなんてできない。
それに、夜久様は、私がいつまでも甘えていい人間じゃない。
今度会った時は、きちんと自分の答えを言わなきゃ、ね。
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多趣味のM(プロフ) - そこで!?って叫んじゃいましたw続き気になります!!更新待ってます!! (2020年10月18日 15時) (レス) id: 2c30e4e7ea (このIDを非表示/違反報告)
ねこ。 - 今まで読んできた吉原の小説で一番面白い作品です!頑張って下さい!私は作者様を応援しています! (2018年4月28日 12時) (レス) id: 8444393bfc (このIDを非表示/違反報告)
まむ(プロフ) - 何度も読み返させて貰ってます!大好きです!また更新されるのをまってます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: f3b21a5c27 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 最初から楽しく読ませて頂きました!とても面白く、素敵な作品に出会えて嬉しいです、!それと同時に続きがとても気になります、、もう更新される予定は無いのでしょうか?大変だと思いますが、大好きな作品ですので更新楽しみに待っています!! (2018年1月29日 22時) (レス) id: f709374f1c (このIDを非表示/違反報告)
おばりょん(プロフ) - まだ、完結してませんよね??これからも応援してます! (2017年8月7日 16時) (レス) id: 571bd0a238 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星月夜 | 作成日時:2017年3月26日 8時