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花火はもうしばらくかしらと思いながら真黒の夜空を見上げておりますと、突然、あの方がさっきの男は誰なのか、というような質問をなさいました。もともと村に住んでいた兄のようなひとなのだと答えると、あの方は納得したように頷きます。そして、彼のことを食えない人だと評価しました。どうしてか分からずに首を傾げますと、あの方はクツクツと笑って、私と彼が世間話を始めた時にはもう私のことを見つけていたのだと話します。彼はあの方が来ていることに気がつきながら悠々と世間話を始めたのだと。親しいように見えたから自分は邪魔かもしれないと思ったとも言いました。それを聞いた私は慌てて首を横に振ります。あの方にそういう勘違いをされるのはどうしても嫌でした。あんまりにも必死な私が滑稽だったのでしょうか。あの方はおかしそうに笑みを深めながら、わかっていると頷きます。それから目線を空に移して、嬉しかったのだと呟きました。何がって、私があの方のことばかり話していたことがです。そのことが、それだけのことが嬉しかったと言うのです。私は驚きに目を瞠って、あの方の横顔を見上げようと顔を上げました。
ちょうどそのときです。夜空に花が咲きました。赤い花です。遅れてぱぁん、と音が響きました。人々の歓声も聞こえました。夜空に光の粒が散りました。花火の打ち上げが始まったのです。色とりどりの花が次から次へと夜空に咲いては散り、咲いては散っていきました。私は花々に目を奪われて、ほう、と息を吐きました。美しかったのです。村から遠い空を見上げるより、ずっと近くて、ずっと大きくて、ずっと鮮やかで。この景色をきっと一生忘れないと思いました。この景色をあの方と一緒に見たことを忘れられるはずがないと思いました。今度こそ、花火が綺麗ですねと言いながら、私はあの方の横顔に目を向けようとして左を向きました。
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作者名：鳴草 | 作成日時：2022年5月6日 1時
