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絶句する私たちに、あの方はなんて顔をするのだと苦笑します。自分は浪人なのだからいつか来るはずだった別れが今やって来ただけだと、励ますように言いながら。私は、なんだか悪い夢を見ているような心地になりました。いつかあの方とお別れしなくてはいけないということは分かっていたはずだったのに、いつからかその事実に気づかないふりをしていて。いつまでもずっとあの方が一緒にいてくださるような気がしていて。あまつさえ、あんなお別れになるなんて考えたこともなかったのです。悪い夢ならよかったと、今でも思っております。反応の鈍い私や村長にしびれを切らしたのか、あの方はとにかく私たちに迷惑はかけないと半ば強引に話をまとめました。そして明日の明朝に出発できるようにしたいからと、家に戻って行ったのです。
村長は私たち姉弟に、今日は泊まると良いと言いました。もうあの方となるべく関わらない方がいい、何があるかわからないのだからと。たぶん、同じ神の目を持つ爺さまに引き起こった出来事があったために、村長も不安を大きく煽られていたのでしょう。普段ははっきりと物を言う弟も流石に戸惑っているようで、どうするのかと言うように私のことを見上げています。結局、家には私一人で戻りました。弟は村長の家に。だって、何があるかわからないというのはその通りでした。その一瞬にも奉行様がやってこないとは言い切れなかったのです。それでも私は家に帰りました。帰らなくてはと思いました。
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作者名:鳴草 | 作成日時:2022年5月6日 1時